この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
小さな声で言って頭をさげる彩芽には冷たい視線が注がれるばかり。
ねぎらいの言葉もお別れのプレゼントも受け取ることなく、彼女はひとり寂しくフロアを出ていく。
彼女に対する怒りは環のなかでまだ消えることなく残っている。
綺麗さっぱり忘れてあげられるほど善人にはなれない。けれど――。
環は席を立ち、初めてここに来たときと同じ地味な洋服に身を包む彼女の背中を追いかけた。
「彩芽ちゃん!」
エレベーターの前で彼女が足を止め、ゆっくりとこちらを振り返る。
環の姿を映す瞳を彼女は静かに伏せた。
「速水さん……本当に申し訳ありませんでした」
「菊池さんとはちゃんと話ができた?」
環の問いかけに彼女はゆるゆると首を横に振る。
「いえ、あれきり一度も連絡していません」
「私たちに聞かせてくれた通話記録、あれはふたりが婚約していた証拠になると思うよ。弁護士さんに相談すれば彼を婚約破棄で訴えることもできるんじゃないかな」
彼女は環に対しては加害者だけれど、同時に武人の悪行の被害者でもある。
彼の仕打ちに泣き寝入りをする必要はないはずだ、環はそう意見したけれど彩芽は苦い笑みを浮かべるばかり。
ねぎらいの言葉もお別れのプレゼントも受け取ることなく、彼女はひとり寂しくフロアを出ていく。
彼女に対する怒りは環のなかでまだ消えることなく残っている。
綺麗さっぱり忘れてあげられるほど善人にはなれない。けれど――。
環は席を立ち、初めてここに来たときと同じ地味な洋服に身を包む彼女の背中を追いかけた。
「彩芽ちゃん!」
エレベーターの前で彼女が足を止め、ゆっくりとこちらを振り返る。
環の姿を映す瞳を彼女は静かに伏せた。
「速水さん……本当に申し訳ありませんでした」
「菊池さんとはちゃんと話ができた?」
環の問いかけに彼女はゆるゆると首を横に振る。
「いえ、あれきり一度も連絡していません」
「私たちに聞かせてくれた通話記録、あれはふたりが婚約していた証拠になると思うよ。弁護士さんに相談すれば彼を婚約破棄で訴えることもできるんじゃないかな」
彼女は環に対しては加害者だけれど、同時に武人の悪行の被害者でもある。
彼の仕打ちに泣き寝入りをする必要はないはずだ、環はそう意見したけれど彩芽は苦い笑みを浮かべるばかり。