この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 彩芽は関連する領域の薬には同じ色の付箋を貼るなど、見る者が調べやすいように工夫してファイリングをしてくれていた。

 彼女は製薬業界で働くのは初めてと言っていたし、きっとたくさんの勉強が必要だったことだろう。

「私の仕事は間違いなく、彩芽ちゃんの丁寧な仕事ぶりに支えられていた。本当にありがとう」

 彩芽は感極まったように細い指先で目頭を押さえた。

 その様子を見つめながら環は数日前に聞いた部長の言葉を思い出していた。

『こんなことがなければね、正社員の打診は一番に藤原さんに声をかけるつもりだったんだけど』

 彩芽自身は不安になっていたようだが、彼女の仕事ぶりは正当に評価されていて三人いる派遣社員のなかで選ばれたのは彩芽だった。

 こうなった以上、もう彼女に伝えることもできないけれど……。

 涙を拭って彼女はもう一度環に向き直った。

「お世話になりました」

(以前のように笑顔でお喋りする関係にはきっともう戻れない。だけどそれでも……彼女の未来に光が差すことを願える自分でいたいな)

 彼女を乗せたエレベーターの扉が閉まるのを見送りながら環はそんなふうに思った。

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