この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 驚くほど変わっていなかった。サラサラと流れる絹糸のような黒髪も、意思の強さがうかがえる瞳も、

 清潔で柔らかな香りも――。

 かつて『環』と彼女の名を口にするたびに感じていた、全身の細胞が生まれ変わるような高揚感。あの新鮮な感覚は若さゆえかと思っていたがどうやら違ったようだ。

「――先生、要先生」

 語気を強めて自分の名を呼ばれ高史郎はハッと我に返る。高史郎よりずっと年上のベテランのナースがいぶかしげな顔でこちらを見ていた。

「あぁ、すまない。ぼんやりしていて……」

 素直に謝罪すると、彼女はもう一度「医局長が要先生を捜していらっしゃいましたよ」と用件を伝えてくれた。

 礼を言って医局に戻ろうとする高史郎に彼女が言う。

「珍しいですね、先生がぼんやりしているなんて」

 返事を求めていたわけではないのだろう。彼女はそのまま踵を返して入院病棟のほうへ歩いていった。

 ベテランナースの言うとおり、白衣を着ている時間に意識が仕事外のところに向かうなど高史郎にはまずないこと。

(自分で思う以上に動揺しているのかもしれないな。いきなり現れるとか、なんなんだ彼女は?)

 もちろん彼女に非がないことは自明の理なのだが……。狼狽を隠そうと高史郎は無意識に手で顔の下半分を覆った。

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