この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
「君は間違いなく天才だが、冗談が通じなさすぎるぞ。医師はサービス業でもあるからな。にこやかに患者とお喋りするのも仕事のうちだ」

 彼に会うといつも同じ説教をされる。もちろん自分の将来のためを思っての忠告だというのは理解している。だが……どうでもいいお喋りは高史郎にとってはどんなオペよりも難易度が高い。

「努力はしているつもりです」

 嘘ではない。成果がまったく出ていないだけで努力しようという気持ちはある。

「そうか、それはいい。ナースに愛想よくすることも大事だぞ。そっぽを向かれたら、我々は親と引き離された赤子のようになにもできなくなる」

 激励するように高史郎の背中を叩いて、彼は去っていった。

(愛想よく、か。それが簡単にできる人間なら……)

 オペ前に会った新しいMR、速水環の顔が脳裏に浮かぶ。硬い表情で高史郎から視線をそらした彼女。思えば十年前、最後に会ったときも彼女は同じような顔をしていた。

(あのときも、さっきも、彼女にあんな顔をさせることはなかったんだろうか)
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