この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
二章 一線を越えられなかった女
二章 一線を越えられなかった女 


 吉祥寺にある、マイナー映画を上映してくれる貴重なミニシアター。出入口のゴミ箱の前で環は意外な人物と遭遇した。

 空になった紙コップを捨てる自分の手と、同じタイミングで同じ動作をしたその人の手がぶつかったのだ。

「あ」

 ふたりの声がぴったりと重なる。

(要くんだ、びっくり)

 声に出さず心にとどめたのには理由がある。笑顔であいさつをしてよいものか迷ったからだ。

 要高史郎、環と同じ国立緑邦大学の四年生。彼は医学部で自分は薬学部。学部が違うのになぜ顔見知りなのかといえば、同じサークルに所属しているためだ。

『緑邦大映画研究会』

 そんな名前のサークルだが活動内容はまぁ緩いもので、一部のメンバーはきちんと映画制作などを行っているようだが大抵の学生は飲み会や旅行といった映画とはなんの関係もない活動に興じていた。

 それでもサークル活動に参加しているだけ自分よりはマシだろう。

 環は部室を利用させてもらうことを主目的とした名ばかり部員だ。

 大規模なサークルなのでこういう者が紛れていても注意を受けることはない。彼もおそらく自分と同類だ。
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