この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 とはいえ、ここまでしっかりと目が合ったのに気づかないふりをするのもおかしいだろう。

「こんばんは」
「……どうも」

 落ち着いていて艶のある素敵な声だ。顔立ちが整っている人は骨格が綺麗だから声もいい、と聞いたことがある。

 本当かな?と疑っていたけれど案外正しい説なのかもしれない。

 あいさつだけで、彼はすぐに踵を返す。

 次のシーンを環はそう想像したが意外にも彼はその場から動かない。

(あれ? 会話を続けてもいいのかな)

「要くんも映画好きなんだね」

 映画サークルの人間同士なのにおかしな質問だなと、聞いてから思った。

 環のほうは、勉強が忙しく映画制作に参加するほどの余裕はないが鑑賞するのは大好きだ。メジャー作品から今夜のようなマイナーなものまで、興味のおもむくままにそれなりの本数を観てきた。

「まぁわりと。この監督の作品はとくに好みだな」

 環の後方に貼られている上映作品のポスターを一瞥しながら彼が答える。

「本当に? 私もね、前作から一気にファンになって! でも今回の作品はそれを上回る完成度だったよね」
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