この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 つまり自分たちの〝お客さま〟は一般の消費者ではなく病院になるわけなのだが、MRはほかのメーカーの営業職のように自ら商品を販売することはできない。

 仕事はあくまでも情報の提供と収集。自社の薬の情報を正確に伝え、そして薬を使用した患者のデータを病院側からフィードバックしてもらう。

 コミュニケーションそのものが任務なので、担当する病院やドクターとの相性は成績に直結する重要な問題だ。

 ドクターのMRへの対応は本当に人それぞれで、アポなしで顔を出してもニコニコと話を聞いてくれる先生もいれば、面談はおろか電話やメールすら嫌がる先生も結構な数存在している。

 それだけに、誰もが固唾をのんで発表の瞬間を待っていた。

「続いて、来期の担当だが……」

 部長のその声に場の緊張感がグッと高まる。

 担当変更があった者もいれば、ない者もいる。MRに冷たいと評判の病院の担当が発表されたときには、小さく落胆の声が漏れ聞こえた。そしてついに――。

「次に()(たか)市エリア。緑邦大病院は今回も五名のチーム制で当たってもらう」
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