この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 ドクターの数、売上に与える影響、ともに大きい大学病院はチーム制で臨む。これはアスティー製薬だけでなく同業他社でも採用されているやり方だ。

「チーフは速水さん、その下に――」

 自分の名前を聞いた瞬間、環は身体の横にぴたりとつけていた右手で小さくガッツポーズを作った。

 大学病院担当はMRにとって花形で、実力を認められた者しか担当できない。おまけにチーフは環にとって念願のポジションだった。

(今年一年、がんばってきた甲斐があった~)

 今すぐに万歳三唱したいくらい、環の心は弾んだ。

 部長が話し終えると、みなが慌ただしく自分の仕事に戻っていく。

 環も新旧の担当病院へのあいさつをどういうスケジュールで進めるか、頭を悩ませながら自身のデスクに向かう。

 その背中に部長が声をかけてくれた。

「速水さん。例の新薬、君なら必ず結果を出せると期待しているから。よろしく頼んだよ」

 高揚する心を落ち着けるため、環は意識して低めの声を出す。

「はい、お任せください」
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