この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 決して嘘ではない。もともと向こうの校舎に通っている間だけのつもりだった。

 けれど……自然な形でやめられてラッキーだったと思っているのも事実だ。

(優実ちゃんや要くんと会いたくないもの)

 あんな恥ずかしい噂を流されてしまったサークルには二度と顔を出せない。

 勉強に集中しよう。

 自分にそう言い聞かせてサークルのことも高史郎のことも忘れたふりをした。

 医学部とは校舎が変わったので当然だけれど、これまでのように学内ですれ違うこともなく、高史郎から連絡がくることもなかった。

 自分たちの縁は完全に切れてしまって、もう二度と結ばれることはないのだろう。

* * *

 やはり、美しい月には人を感傷的にさせる作用があるらしい。

「我ながら十年も前のことをよく覚えているものだわ」

 自嘲気味につぶやいて、環は月明かりに照らされる歩道橋を歩きはじめた。

『不感症』
『つまらないって感じ?』

 その言葉は環に強固な呪いをかけた。
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