この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
三章 今さらか、今後こそか
三章 今さらか、今度こそか 


「思ったより副作用の吐き気が強い。それは多くの患者さんからのご意見ですか?」

「同じ意見が七名。いずれも高齢の女性だ」

 今、環と高史郎が話題にしているのは例の新薬ではなく別の薬だ。

 すでに使用してもらっている薬にこういったフィードバックをもらい開発チームに共有するのもMRの大事な仕事のひとつ。

「なるほど。ちょっと社に連絡してもいいですか? ほかにも同じ意見があがっているか確認してきます」

 環は席を外し、会社に電話をかける。五分ほど話をして高史郎のもとに戻ったけれど彼の姿が見当たらない。

(え、どういうこと?)

 こちらはまだ話の途中という認識だったのだが……。

 もしかしたら容体が急変した患者でもいて呼び出されたのだろうか?

(いや、彼のことだから話は終わったと思って普通に医局に帰ったのかも)

 どちらにせよMRは多忙なドクターに時間をいただいているという立場だ。

 途中退席されようが、アポをすっぽかされようが文句は言えない。

 半日待って、五分でも話ができれば大成功というのが自分たちの仕事なのだ。

「仕方ない、帰るか」

 そうつぶやいて踵を返した環の目の前に、両手にマグカップを持った彼が立ちはだかる。

 思いきり眉根を寄せて高史郎は口を開いた。

「あいさつもなしに帰るとは……ずいぶんだな」
「こ、これはですね!」

(あら。これじゃ無礼なのは私のほうってことに!)

 弁解しようとオロオロする環に彼は小さく息を吐く。

「俺がなにも告げずに帰ったとでも思ったか?」
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