この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 呆れたような彼の声に、言い訳がましく言葉を返す。

「え~と、緊急の呼び出しが入ってしまったのかなぁと。大学病院のドクターはお忙しいでしょうし」

「コーヒーくらいは出すべきだったかと思って用意してきたんだよ」

 手に持っているカップはそういうことだったのか。

 環は驚きに目をみはる。

 彼がこんな気遣いを見せてくれるとは思ってもいなかった。

「わ、私のぶんも?」
「インスタントだけどな」
「……ありがとうございます」

 もう一度、向かい合わせに座って話を続ける。

「確認したところ、ほかの病院からも似たようなフィードバックがあがっていて開発チームのほうで改善策を検討するとのことでした」

「そうか。現状は吐き気を抑える薬を一緒に処方しているが、薬が増えるのを嫌がる患者は多いから副作用は少ないほうがありがたい」

 高史郎は言いながら、ミルクポーションの蓋を開けて自分のコーヒーに注ぎ入れた。

 環のことは気にもしていない様子だ。

(このマイペースぶりはあいかわらずね)

 ふと、自分があの懐かしい映画研究会の部室にいるかのような錯覚を覚えた。

 ひとりぶんのスペースを空けた隣に仏頂面をした高史郎の横顔がある。
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