この恋、温め直しますか? ~鉄仮面ドクターの愛は不器用で重い~
 多くを語ると余計に彼女を追い込んでしまう気がして、そのひと言だけにとどめた。

 彼女の華奢な背中を見送ってから環は細く息を吐く。

 チーフになったからって、少し偉そうな物言いだっただろうか?

 こんな短時間ではなくしっかり時間を取って話をすべきだった?

 自分の言動に対する反省点ばかりが浮かんでくる。

(人を励ますって難しいな)

 決して若手社員じゃなくなってきた今、ようやく管理職である上司たちの苦悩が理解できるようになってきた。

(今度ランチにでも誘って、もう少しちゃんと話を聞いてみよう)

 彩芽より少し遅れて席に戻ると、彼女のもとに環のライバル武人が来ていた。

「教えてくれてありがとう。助かったよ、さすが藤原さん!」
「いえ、お役に立てて光栄です」

(菊池さんのチームは彩芽ちゃんの担当じゃないのに、珍しいな)

 けれど彼に褒められて嬉しそうにしている彩芽の姿を見ると武人に心から感謝したくなった。ちょっとでも元気になってくれたならなによりだ。

 次の瞬間、パチッと環と武人の視線がぶつかる。環が軽く会釈をすると、彼はふっと唇の片端をあげた。

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