再愛〜いつまでもあなたを〜
1.予期せぬ再会
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あなたにもずっと忘れられない人はいますか?
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桜の花びらが舞う季節、その人は私の前に現れた。
目があってもニコリともせず何も言わずにそらす無愛想な人。
感じが悪いのに、でも、なぜか気になった。
時々、寂しそうな目をして、どこか遠くを見つめる彼。
なぜか、惹かれた。
時々、ほんの時々、友達と話しながら優しい笑顔を見せる彼に———。
*****
また思い出しちゃった。空見ると駄目だなぁ。
「.....とみ、瞳、瞳!」
「あっ、ごめん、何?」
「またぼんやりして!もしかしてまだ思い出すの?あいつのこと」
彼女は一ノ瀬めい。中学からの親友で、気の置けない仲。
「うん、こんな至近距離で空見ちゃうとね」
「そっか」
今日は久しぶりの休みに行った帰国記念の二人旅の帰り。思う存分羽根を伸ばして、すっきり心も入れ替えて、それだけじゃない。向こうでの時間があの人のことを過去のことにしてくれたと思ったのに.......。
「ねぇ、瞳さ、結婚願望とかないの?」
「なんで?」
聞かなくてもわかる。めいがこういうことを聞くのは決まって、私が過去に囚われているとき。これは彼女なりの気遣いだ。
「いや、気になるじゃん。2年半向こうにいたんだから、その間ノリのいいアメリカンとなんかあったりしたのかなって」
「ははっ、いや何もないよ」
「ほんとに?あんた美人なんだから声かけられるでしょ」
「美人ってよく言われるけど、声もすごいかけられたけど何もないよ」
「うわー、美人ってよく言われるってそれ自分で言っちゃう?やっぱりすごいわー」
「冗談よ(笑)」
(ほんとはそんなに声かけられてないし...)
「すいません!どなたか医療従事者の方いらっしゃいませんか?具合の悪いお客様がいて...」
「はい!」
「ちょっと!」
迷いはなかった。こういうときのために私はアメリカに行ったのだから。
「お願いします!」
「ほんとに行くの?」
「苦しんでる人を放っておけない」
「わかった、私も行く」
「東京総合医療病院産婦人科の松宮です」
「同じく内科の一ノ瀬です」
「患者さんの容態は?」
「産婦人科の先生...ちょうど良かったです、妊婦さんなので」
「そうですか、週数は?」
「34週のようです。既に破水しています」
「わかりました。
お母さん、もう産まれそうなのでここで産みましょう」
「瞳、大丈夫なの?」
「大丈夫よ、機内で34週ってこと以外は今のところ問題ないから
めい、サポートよろしく」
「了解」
*****
「お母さん、元気な女の子ですよ」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ、仕事ですから。
でも、お母さん、今回は無事でしたけど、本来は後期に飛行機などで遠出をすることは
好ましくありません。
今後は気をつけて下さい」
「友人の結婚式だったものですから、以後気をつけます」
「瞳、救急隊員の方がいらしたわ」
「状況は聞きました、あとはこちらで引き継ぎます」
「「よろしくお願いします」」
「はあ、どうなることかと思ったけど、とにかく無事でよかったー」
「そうね〜」
正直、自ら名乗りを上げたものの不安だった。機内でのお産なんて経験はもちろん、シミュレーションすらしたことない。ほんとにどうなることかと思ったが、何とか無事に終わってよかった...。
「瞳、お疲れ、最後の最後にとんだ休暇になっちゃったね」
「まあ、うちらっぽいけどね(笑)」
「確かに(笑)」
「めいもお疲れ」
「さーて、これからどうする?」
「遅めの昼ごはんにする?空港で食べてもいいし、外出る?」
「なんか外出ようか、なんとなく」
「うん」
(実は飛行機から出る前にCAさんに、機長さんがお礼言いたがってるからロビーで待っててくれって言われたけど、お礼なんて当たり前のことしただけだから恐れ多いし、手間取らせちゃうから帰っていいよね)
そう思って捕まる前に帰ろうとしたときだった。
「あーいたいた、機長あの方々が「......瞳?」」
「!!」
「??機長?お知り合いですか?」
まさかと思った、もう2度と会うことはないと思ってた、ずっと好きで忘れられなかった人、
その人の声を聞けるなんて、、
きっと幻聴だろうと、、
でも振り返った時、確かにあの人の姿を見た
ずっと会いたくてたまらなかった人の、
「蓮.......」
「久しぶりだな」
「久しぶり」
「......元気そうでよかった。夢も叶えたんだな、おめでとう」
「......ありがとう。蓮も、夢叶えたんだね。制服、似合ってる」
「ありがとう.......」
「.......」
「.......」
振り返った先にいたのは、別れてから一度も忘れることのできなかった、初恋の人だった———。
*****
彼との出会いは高校生のとき。
同じクラスで、苗字が「松崎」と「松宮」だったから席が前後だったのだ。
「お前、身長何センチ?」
(突然何この人....?)
「.......166センチだけど.......」
「へぇ、女子の中では高い方か」
「....それが何か?....」
(何が言いたいの?)
「いや、俺の後ろだと見づらいだろ、席変わってやるよ」
「いや、ちゃんと見えてるんで大丈夫です」
(自分の背が高いって言いたいのね、この人、やな感じ)
「そんな遠慮すんなよ、ほら」
「おい!蓮!!お前ただ後ろ行きたいだけだろ!」
「よう、翔!お前今日遅いな」
「遅延だよ、自転車勢のお前と違ってこっちは朝から人に揉まれてそれはそれは大変なこと」
「そうか」
「おい反応薄くね、てか、お前自分の身長が高いこと利用して後ろに行こうとしてるんじゃないぞ、俺には見え見えだ!」
(やっぱり、この人優しさでもなんでもなく、ただ後ろ行きたいだけだ、てかもう一人は誰?)
「ふーんバレたか残念」
「ったく、ごめんね、あっ俺は葉山翔、南中出身、こいつとは幼稚園の頃からの腐れ縁でさ、1年間よろしく、君の名前は?」
「松宮瞳、三中出身です、よろしくお願いします」
「松宮さんか、君も災難だね、クールビューティーゆえに入学早々人見知りで最高に愛想のない他人に滅多に興味を示さない蓮くんに絡まれて」
「おい!今明らかにディスっただろ!」
「ディスったよ、でも事実だろ、蓮が初対面の人間に自分から絡みに行くなんて、明日は大雪だな」
「春に北海道でもないのに雪降るかよ」
「そういうところだよ蓮くん、例え話だって、ね松宮さん」
「あっ、ははは.......」
「ていうか蓮くんてこういう子がタイプだったんだ? かわいい系よりきれい系が好きなのは知ってたけど、明らかに自分にいい印象は抱いていない相手に行くとは、なかなか手に入らないものほど欲しくなるという法則か」
「何勝手に納得してるんだ、別に興味があるわけでもタイプなわけでもない、後ろにいければと思っただけだ」
(ほんとやな感じ、私だってこんな人タイプじゃないわ)
「ふーん今日のところはそういうことにしておいてあげよう」
「くっ、ほんと余計なやつだな翔は」
「うるせえ、だいたいお前は・・・」
最悪な初対面だった。急にお前呼びして私のコンプレックスの身長について触れて、かと思えば最後はタイプじゃないなんて。いくら好みじゃない相手でも流石に傷ついたし、ムカついた。この人とは極力関わらないでおこう、そう思ったのに.......
どういうわけか親友のめいと葉山くんが意気投合してしまい、私たちは4人で話すことが多くなった。
「松宮ー、ノート見せてくんない?」
「いいけど葉山くんまた寝てたの?」
「ちげーよ!ノート取ってないのは蓮!俺は板書の全部を写してるわけじゃないし、それにこいつ見せてもらう立場なのに俺の字汚いとか言いやがって、もうぜってー見せてやんないつーの」
「えー葉山くんなら見せてもいいけど.......」
「なんだよ」
(うっ、相変わらず感じわるっ、見せたくなくなる気持ちわかるわー)
「人に頼む態度じゃないよね」
「お前、オカンみたいだな」
「は?」
「おいおい蓮、それはないだろ、好きな子に意地悪しちゃうとか小学生かよ」
「もういい!あんたの頼みなんか一生聞いてあげないから!」
「あーあ、また瞳のこと怒らせちゃった、松崎も少しは反省して優しくしなよ、女ってのはね、結局優しくされるのが一番嬉しいのよ」
「優しくされれば機嫌良くなるとか単純な生き物だな」
「あんたね!男だって女子に優しくされると鼻の下伸ばすくせに」
「俺はそんなの全然嬉しくない」
「じゃあ、あんたは何されると嬉しいのよ」
「....俺は....言いたいことをはっきり言ってくれる方がいい」
「.......あんたM?」
「は、俺が言ってんのは思ったこと隠されるよりも全部包み隠さずに話してくれる方が心を許してくれてる感じがするってことだよ」
「ふふーん」
「なんだよ」
「あんたって意外と乙女なんだなって、だって特別感が欲しいってことでしょ?他の人には上辺だけの優しさをふりまいてるけど俺にだけは本音を見せてくれてるんだぞっていう」
「.......そうなのか?」
「そうよ」
「今更だけど、蓮が松宮さんに惹かれた理由がよくわかったよ」
「ほんと今更ね」
葉山くんとめいは彼がまるで私のことを好きみたいに言うけど、私は本気にしてなかった。男の子は誰でも好きな子には優しくするもんだと思ってたから。
でも、この日を境に蓮は変わった。少しずつ。無愛想なのは変わらなかったけど、言葉に棘がなくなった。
そうなるとこちらとしてもいつまでもツンケンしていられない。普通に接するようにした。
そうこうしているうちに、体育祭が終わり、人見知りの蓮にも友達がたくさんできて、休み時間はいつも教室の中央で友達に囲まれてた。私たちは4人で話すことはあるものの、ほとんどは葉山くんとめいの会話で、私と蓮は目を合わせて話すことが減っていった。
そのころからだ。蓮を目で追うようになって、友達と話している時にたまに見せる優しい笑顔に惹かれていった。
付き合ってからの彼は、友達に見せてる笑顔とも違う、優しい目をした表情をたくさんむけてくれた。
私はその表情を見るのが好きだった。意地悪なのは出会った時から変わらなかったけど、その奥に愛情が隠されていることも知った。
でも何よりも私が好きだったのは、彼の夢を語る時の真剣な顔と紡ぐ言葉だった———。
*****
「やだなー瞳のことは後ろ姿だけでわかったくせに、私のことは忘れてるの?ひっどーい(笑)」
「忘れてなんかないよ(笑)。一ノ瀬だろ、久しぶり」
「おす」
「あの、お取り込み中に失礼致しますが、松崎機長のお知り合いの方ですか?」
「ああ、」
「じゃあ、私帰るね」
「ちょっと瞳!.......話さなくていいの?せっかく会え「瞳、少しの時間でいい、話がしたいんだ」」
そう言った彼の表情には少しの後悔と固い決意が見えた、、ような気がした。
「......わかった、少しだけなら」
「ありがとう。じゃあ、このあとデブリがあるから、30分後に展望デッキで」
「...了解」