君の心に触れる時
再発
春香が退院後のリハビリを開始してから数日後、蓮は彼女の病室に呼び出した。
モニターに映る心電図の波形を見つめながら、彼の表情は険しいままだった。

「春香、少し話がある。」

蓮の声はいつになく低く、緊張感が漂っていた。春香は赤ちゃんを抱きながら不安げに彼を見つめた。

「…どうしたの?」

蓮は一度目を閉じ、大きく息を吐いた後、彼女に向き直る。

「再移植を検討してほしい。」

その言葉に、春香は一瞬固まり、赤ちゃんを抱える手が震えた。

「再移植…?」

「春香の心臓は限界に近い。今のままだと、残された時間はそう長くないんだ。」

蓮の言葉は冷静だったが、その瞳には深い苦悩が滲んでいた。


しばらくの沈黙の後、春香は蓮から目をそらし、小さく首を振った。

「…嫌だよ。移植はしない。」

蓮は驚いたように彼女を見つめる。

「春香、これはお前の命を守るための話だ。移植をしなければ、赤ちゃんと過ごす時間だって—」

「その時間が欲しいの!」

春香の声が蓮の言葉を遮った。

彼女は赤ちゃんを胸に抱きしめながら涙をこぼし始めた。

「もう二度とこの子を抱けなくなるかもしれない手術なんて、怖くてできない…。蓮だって分かるでしょ?私にとってこの子がどれだけ大事か。」

蓮は何も言えず、ただ春香の涙を見つめていた。




夜、蓮は一人でデスクに座り、心臓移植のデータを見つめていた。
春香の拒絶が彼の胸に重くのしかかる。
医師としては移植を勧めるべきだと分かっているが、夫として、彼女の気持ちを無視することはできなかった。

「…どうすればいいんだ。」


蓮の独り言が静かな部屋に響く。
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