君の心に触れる時


春香の最期を迎えた後、病室の中には静けさが漂っていた。
蓮はしばらく動けずに、春香の手を握りしめ、涙を流し続けた。
彼の心の中で、春香の笑顔、彼女の優しさ、二人で過ごした数えきれない日々が思い出され、胸が締め付けられた。だが、次第にその涙が次第に穏やかさを帯び、蓮はゆっくりと春香の顔を見つめる。

「ありがとう、春香…」

その一言が、蓮の胸に深く響いた。

智己は静かに部屋を後にし、蓮が少しでも落ち着けるようにと、その場を離れた。
しかし、蓮はまだ春香から目を離すことができなかった。何度も何度も、彼女の手を握りしめ、心の中で別れを告げていた。



数時間が経ち、夜が訪れた。

病院の外の空は暗く、星がきらめいていた。蓮は病室の窓からその星空を見つめながら、深いため息をつく。

「春香、君がいなくても、僕は前に進まなきゃいけないんだよな。」

彼は心の中でつぶやくと、目を閉じた。春香が残してくれた愛と記憶は、これからも彼を支えるだろう。

しかし、それだけでは生きられないこともわかっていた。
彼の中には、春香が望んだように、彼女の思いを受け継いで生きていく責任があった。




数日後、蓮は春香の遺品を整理しながら、彼女が生前に書いた手紙を見つける。それは、春香が最期の時に蓮に伝えたかった思いがつづられたものだった。
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