君の心に触れる時
春香の容態は急激に悪化し、蓮は再び春香の手を握りしめながら、涙を流して必死に声をかけていた。
「春香、お願い、目を開けて!お前はまだ…お前はまだ、俺と一緒に生きなきゃいけないんだ!」
しかし、春香の顔色はますます青白く、息が浅くなる。その瞬間、心臓モニターの音が不規則になり、警告音が鳴り響いた。
「ナースコール!早く、ナースコールを!」
蓮は叫びながら、周りの医師や看護師を呼び込む。
全員が慌ただしく動き始める中、蓮は必死に春香を呼びかけ続けた。
「春香、頼む、絶対に死なせない。お前がいなくなるなんて、俺には耐えられないんだ!」
だが、春香はただ静かに横たわるだけで、目を開けることはなかった。
その時、智己が病室に駆け込んできた。彼は医師としての冷静さを保ちながら、蓮に近づいてきた。
「蓮、もうやめてあげろ。」
智己は指示を出すが、その声は普段とは違って、どこか冷たい響きがあった。
「春香はもう限界だ。もう手遅れだ。」
蓮はその言葉に耳を疑った。
「そんな…だめだ、春香を失うわけにはいかない!」
蓮はさらに強く春香を抱きしめながら、心臓マッサージを続けようとするが、智己が彼の腕を力強く引き止めた。
「蓮!お前もわかっているだろう?春香の心臓はもう限界だ。無理に延命しても、彼女の苦しみは増すだけだ。お前が彼女を苦しめてどうする?」
智己の声には無情な現実があった。蓮は息を呑み、手を止めた。
「お前は何を言ってるんだ?こんなに…こんなに愛しているんだぞ、俺は!」
蓮の目に涙がこぼれ落ちた。春香の死を受け入れるなんてできなかった。しかし、智己は冷静に続けた。
「お前だって、わかってるだろう。春香が望んでいることは、もう苦しむことなく、安らかに眠ることだ。」
その言葉が蓮の胸に突き刺さる。
「だが…」
蓮は何も言えずに、ただ春香の手を握りしめる。涙は止まらなかった。
智己は蓮の肩をそっと押さえ、静かに言った。
「蓮、彼女のために最後にしてやれることは、彼女が安らかに逝けるようにしてやることだ。お前が手を放さなければ、彼女は安らかに眠れない。」
その言葉が、蓮の心に重くのしかかった。
「お前が春香を愛しているなら、今は彼女を解放してやれ。」
蓮は涙を流しながら、春香の手をそっと放した。
その瞬間、春香はゆっくりと息を引き取る。
静かな病室の中、蓮は春香を見守り続けることしかできなかった。彼の心は痛み、胸が締め付けられるようだった。
「春香…」
その一言を呟くと、蓮はもう何も言うことができなかった。春香は、静かに、そして穏やかにその命を終えた。
智己がそっと蓮の肩に手を置き、静かに言った。
「今は、お前がするべきことがある。彼女を最後に送るんだ。」
蓮は無言で頷き、春香の顔に手を合わせる。涙が止まらなかったが、蓮は彼女をしっかりと見守り、最後の時を迎えた。