野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)
 中宮(ちゅうぐう)源氏(げんじ)(きみ)はまして冷静ではいらっしゃれない。それでも源氏の君は、亡き院のどの皇子(みこ)よりも真心(まごころ)をこめて法要(ほうよう)を行われる。
 去年はご正妻(せいさい)(あおい)(うえ)を亡くし、今年は(ちち)院を亡くされた。
<世の中がつくづく悲しい。出家(しゅっけ)するよい機会だと思うが、気にかかる幼い人が多すぎる。東宮(とうぐう)も、(むらさき)(うえ)も、左大臣(さだいじん)()若君(わかぎみ)も>
 あちこちに心配な人がいて、とてもご出家はできそうにない。

 上皇(じょうこう)御所(ごしょ)には中宮(ちゅうぐう)の他にもたくさんのお(きさき)がお暮らしだった。しかし桐壺(きりつぼ)(いん)がお亡くなりになった今、いつまでも(とど)まっていらっしゃることはできない。四十九(しじゅうく)(にち)が過ぎると実家などへ戻っていかれる。
 年末の空は暗く重苦しい。中宮は院を失われたお悲しみと、これから皇太后(こうたいごう)から受ける仕返しを想像なさって、空と同じように暗く(しず)んでいらっしゃった。
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