野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)
 世間じゅうが悲しみに包まれたまま年が明けた。源氏(げんじ)(きみ)憂鬱(ゆううつ)二条(にじょう)(いん)(こも)りきりでいらっしゃる。
 地方官の人事(じんじ)異動(いどう)が近づくこの時期は、毎年たくさんの来客がある。希望の官職(かんしょく)をいただきたい貴族や役人たちが、源氏(げんじ)(きみ)にお願いにやって来るのだった。
 しかし今年は全然。もう右大臣(うだいじん)の時代だから、誰も源氏の君には見向きもしない。ご正妻(せいさい)はお亡くなりになったけれど、源氏の君は左大臣(さだいじん)婿君(むこぎみ)だった。右大臣家からは目の(かたき)にされていらっしゃる。人事(じんじ)に口を出す権力はお持ちでないと、誰もが分かっていた。
 来客のない二条の院は静かで、事務仕事をする男性たちがのんびりと働いている。ご自分が政治の世界からはじき出されたことを、源氏の君はひしひしと感じていらっしゃった。
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