野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)
 さすがに源氏(げんじ)(きみ)も、新斎宮(さいぐう)のための神聖な屋敷に恋人を訪ねるのはためらわれた。そのまま月日が()つうちに桐壺(きりつぼ)(いん)がご体調を(くず)された。重病というほどではないものの、ときどきお苦しみになる。
 源氏の君は院のこともご心配だけれど、御息所(みやすんどころ)のこともお気にかかる。
<私を冷淡(れいたん)だと(うら)んだまま伊勢(いせ)へ行かせるのもお気の毒だし、人聞きも悪いだろう>
 ついに新斎宮の屋敷を訪ねることになさった。

 もう今日明日にも伊勢へ出発なさるという日だった。御息所はなんとなくお気持ちが落ち着かない。そこへ源氏の君から、
「少しだけお話しできませんか。長居(ながい)はいたしません」
 という手紙が何度も届いた。御息所は悩まれる。
<今さらお会いするのはよくないだろうけれど、あまりそっけなくするのも風情(ふぜい)がない。物越しにご挨拶(あいさつ)するだけなら>
 と、ひそかに源氏の君をお待ちになる。
< 2 / 49 >

この作品をシェア

pagetop