野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)
 屋敷のあるあたりは広々とした野原だった。一歩足を()み入れるだけで、源氏の君のお心は()さぶられる。
 秋の花はすっかり()れて、かすれた虫の()にすさまじい風の音があわさっている。そのなかから何かの楽器の音がとぎれとぎれに聞こえてくるのは、まさに別世界だった。
 源氏の君は目立たないように、しかし御息所(みやすんどころ)にお会いになるのだから念を入れて身支度(みじたく)なさっていた。
<どうして今までお訪ねしなかったのだろう>
 しみじみとした場所に感動して後悔(こうかい)なさる。

 仮住まいの屋敷らしく全体的に質素だけれど、新斎宮(さいぐう)が身を清める屋敷だから、敷地(しきち)には神々(こうごう)しい鳥居(とりい)がある。神様にお仕えする役人たちもちらほらいて、源氏の君にはめずらしい光景だった。
 よく言えばいかにも神聖(しんせい)、しかし人気(ひとけ)が少なくて物(さび)しい。
<こんなところにあの悩みがちな御息所がお暮らしになっていたのか>
 源氏の君はお気の毒で心苦しくなってしまわれた。
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