野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)
源氏の君には嫌なことばかりが増えていくけれど、朧月夜の尚侍とはひそかに約束してお会いになる。尚侍は女官だから正式なお妃ではないとはいえ、帝のご愛情をいただいているのだから、これはかなり危険なご関係だった。
帝が仏教の重要な儀式で籠っていらっしゃる夜、尚侍の女房はこっそりと源氏の君を手引きした。御殿の奥深くではない上、儀式のために内裏に出入りする人が多い夜だから、誰かに見つかるのではと恐ろしい。
尚侍は人生で一番美しいときでいらっしゃる。身分にふさわしい重々しさはないけれど、華やかで自由な魅力がおありだった。
夜明けが近づこうとしている。
「飽きられる日が怖いわ。私の方があなたを好きなのだもの」
めずらしく気弱そうに尚侍はおっしゃった。
「あなたに飽きることなどあるものですか」
源氏の君は女君を慰めて、あわただしく弘徽殿をお出になる。
まだ夜明けまで間がある。霧のなか、月明かりがぼんやりと源氏の君のお姿を照らしだす。粗末な格好をなさっていてもふつうの人とはまったく違うお美しさだった。
足早に弘徽殿から離れていかれるとき、ひとりの貴族が源氏の君とすれ違った。月明かりの届かない暗いところに立っていたこの貴族に、不幸にも源氏の君はお気づきにならない。
尚侍との秘密のご関係は、ここから漏れたのかしら。
帝が仏教の重要な儀式で籠っていらっしゃる夜、尚侍の女房はこっそりと源氏の君を手引きした。御殿の奥深くではない上、儀式のために内裏に出入りする人が多い夜だから、誰かに見つかるのではと恐ろしい。
尚侍は人生で一番美しいときでいらっしゃる。身分にふさわしい重々しさはないけれど、華やかで自由な魅力がおありだった。
夜明けが近づこうとしている。
「飽きられる日が怖いわ。私の方があなたを好きなのだもの」
めずらしく気弱そうに尚侍はおっしゃった。
「あなたに飽きることなどあるものですか」
源氏の君は女君を慰めて、あわただしく弘徽殿をお出になる。
まだ夜明けまで間がある。霧のなか、月明かりがぼんやりと源氏の君のお姿を照らしだす。粗末な格好をなさっていてもふつうの人とはまったく違うお美しさだった。
足早に弘徽殿から離れていかれるとき、ひとりの貴族が源氏の君とすれ違った。月明かりの届かない暗いところに立っていたこの貴族に、不幸にも源氏の君はお気づきにならない。
尚侍との秘密のご関係は、ここから漏れたのかしら。