野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)
「帝にご挨拶をしておりました。遅くなりまして」
源氏の君は中宮のところへ参上なさった。
<昔ならこんな月夜は音楽会をして華やかにお過ごしだったのに>
桐壺院の時代と比べて、源氏の君はお悲しい。
「実家で想像しておりました以上に、内裏は右大臣一族の天下のようです。帝がお気の毒なほどで」
中宮は女房を通じてこぼされた。ひさしぶりの中宮の気配に、源氏の君は涙を流される。
「帝はあいかわらずお優しくていらっしゃいました。帝を自分の思いどおりにしようとする者たちが問題でございますね」
政治家の顔でおっしゃる。
中宮は東宮を心配して、内裏から下がる前にいろいろな心構えをお教えになる。しかし幼い東宮はそれほど深刻に受け取られない。いつもは早寝なさるのに、
<母君がお帰りになるまで起きていよう>
と思っていらっしゃるらしい。中宮がお帰りになるときは、恨めしそうにしつつも、お立場をわきまえてまとわりつくことはなさらない。中宮は頼もしくも悲しくもお思いになる。
源氏の君は中宮のところへ参上なさった。
<昔ならこんな月夜は音楽会をして華やかにお過ごしだったのに>
桐壺院の時代と比べて、源氏の君はお悲しい。
「実家で想像しておりました以上に、内裏は右大臣一族の天下のようです。帝がお気の毒なほどで」
中宮は女房を通じてこぼされた。ひさしぶりの中宮の気配に、源氏の君は涙を流される。
「帝はあいかわらずお優しくていらっしゃいました。帝を自分の思いどおりにしようとする者たちが問題でございますね」
政治家の顔でおっしゃる。
中宮は東宮を心配して、内裏から下がる前にいろいろな心構えをお教えになる。しかし幼い東宮はそれほど深刻に受け取られない。いつもは早寝なさるのに、
<母君がお帰りになるまで起きていよう>
と思っていらっしゃるらしい。中宮がお帰りになるときは、恨めしそうにしつつも、お立場をわきまえてまとわりつくことはなさらない。中宮は頼もしくも悲しくもお思いになる。