野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)
 左大臣(さだいじん)辞表(じひょう)を提出なさった。桐壺(きりつぼ)(いん)がお亡くなりになったことで政治の実権(じっけん)右大臣(うだいじん)へ移り、もう参内(さんだい)するのも嫌になってしまわれた。
 (みかど)は父院のご遺言(ゆいごん)を思い出される。
「左大臣を大切になさい。この先も長く天下を支える、忠実(ちゅうじつ)で頼りになる人です」
 あれほど言い残していかれたのだから、帝は何度も却下(きゃっか)なさった。しかし、左大臣は押しつけるように辞表を提出して、屋敷に(こも)ってしまわれた。今や右大臣一族だけが出世して、政治を思いどおりに動かしていらっしゃる。
 左大臣は重鎮(じゅうちん)の政治家だった。引退を帝は心細くお思いになったし、善悪(ぜんあく)の分かる人たちは誰もが(なげ)いていた。
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