野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)
 新斎宮(さいぐう)の行列を見物するために、通りにはたくさんの乗り物が集まった。新斎宮と母(はは)御息所(みやすんどころ)は奥ゆかしく趣味がよいと評判だから、世間は一目(ひとめ)見ようと楽しみにしている。
 夕方前に行列は大(だい)内裏(だいり)に到着した。御息所は亡き東宮(とうぐう)に入内(じゅだい)したときのことを思い出される。いずれは中宮(ちゅうぐう)にという父(ちち)大臣(だいじん)のご期待を背負って東宮妃(とうぐうひ)におなりになったのに、今や元東宮(とうぐう)の未亡人(みぼうじん)。新斎宮のお供(とも)として戻ってくることになってしまわれた。
「今日だけは昔のことを思い出すまいと思っていたけれど、悲しい気持ちは抑(おさ)えきれない」
 小さくつぶやかれる。
 新斎宮は十四歳。もともとかわいらしい人が特別な衣装で着(き)飾(かざ)っていらっしゃるから、不吉(ふきつ)なほどのお美しさだった。帝(みかど)もはっとなさる。儀式(ぎしき)で別れの櫛(くし)を挿(さ)しておあげになるときには、思わず涙をこぼされた。
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