憧れの上司は実は猫かぶり!?~ウブな部下は俺様御曹司に溺愛される~
私の席の後ろを通る際、肩を叩いてくる。

「帰ってくるから待ってろ。
遅くなりそうなときは連絡するから、タクシーで帰れ」

「かしこまり、です」

わざと若干、ふざけて返事をする。
笑った私を見て、彼も笑い返してくれた。

「じゃ、いってくる」

彼が身を屈め、身体を近づけてくる。
まさか、会社でキスする気かと身がまえたが。

「ここ。
数字、間違えてるぞ」

「うそっ」

画面の指を指された場所を慌てて確認する。
見てみると桁がひとつ多かった。
教えてくれて、ほんとに助かった。

「気持ちはわかるが、落ち着いてやれ。
絶対に俺がなんとかしてやるから」

「……はい」

柔らかく課長の手が私の頭を軽くぽんぽんし、思わずその顔を見上げていた。

「ん?」

私の視線に気づいたのか、軽く彼が首を傾げる。
しかしすぐに自分のやった行動に気づいたのか、みるみる耳が真っ赤に染まっていった。

「い、いってくる!」

怒ったように言い、足音荒く今度こそ課長が出ていく。

……無意識だったんだ、あれ。

ストーカーのことを考えて沈みがちな気分だが、ちょっとだけ機嫌がよくなっていた。

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