憧れの上司は実は猫かぶり!?~ウブな部下は俺様御曹司に溺愛される~
目があった途端、彼は私に縋り付いてきた。

「た、助けてくれ!」

それを妙に冷めた頭で見ていた。
先ほどまで殺そうとしていた人間に助けを求めて、応じてくれると思っているんだろうか。

「おい」

課長が私から男を引っぺがす。
ようやく動き始めた頭で、落ちているナイフを拾ってハンカチでくるみ、男から取られないように確保した。
さらに課長の眼鏡を拾って渡す。

「サンキュー」

受け取ってかけた課長の頬からは血が、出ていた。
それを見ていっぺんに血の気が引いていく。

「宇佐神課長、血が!」

「ん?
ああ。
かすり傷だろ」

乱雑に彼はシャツの袖口で傷を拭ったが、まだ血は出続けている。
慌ててバッグの中からポケットティッシュを探し出し、袋から全部抜いて傷口に当てた。

「ああ、わるいな」

それを片手で押さえ、しゃがみ込んで課長は男と目をあわせた。

「あんた、元緑淡舎の市崎だろ?」

「ち、ちがっ」

男は宇佐神課長に殴られるとでも思っているのか、腕で頭を庇い丸まった。
しかし、元緑淡舎の市崎さん、って?
緑淡舎は仕事をしたことがあるから知っている。
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