拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】
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『拝啓、あしながおじさん。
新年あけましておめでとうございます。おじさまはこの年末年始、どんなふうに過ごしてましたか?
わたしは今年の冬休み、予定どおり山梨の〈わかば園〉で過ごしてます。新作の取材もしつつ、弟妹たちと一緒に遊んだり、勉強を見てあげたり。
施設にはリョウちゃん(今は藤井涼介くん)も帰ってきてます。新しいお家に引き取られてからも、夏休みと冬休みには帰ってきてるんだそうです。向こうのご両親が「いいよ」って言ってくれてるらしくて。ホント、いい人たちに引き取ってもらえたなぁって思います。おじさま、ありがとう! お願いしててよかった!
リョウちゃんは今、静岡のサッカーの強豪高校に通ってて、三年前よりサッカーの腕前もかなり上達してました。体つきも逞しくなってるけど、あの無邪気な笑顔は全然変わってなかった。「やっぱりリョウちゃんだ!」ってわたしも懐かしくなりました。
そして、わたしが今回いちばん知りたかったこと――両親がどうして死んでしまったのかも、聡美園長先生から話を聞かせてもらえました。
わたしの両親は十六年前の十二月、航空機の墜落事故で犠牲になってたんです。で、両親は事故が起きる二日前に、小学校時代の恩師だった聡美園長にまだ幼かったわたしを預けたらしいんです。親戚の法事に、どうしてもわたしを連れていけないから、って。でも、それが最後になっちゃったそうで……。
幸いにも両親の遺体は状態がよかったから、園長先生が身元確認をしたそうです。二日前には元気だった二人の教え子と、変わり果てた姿で無言の再会をすることになってしまった園長先生の気持ちを思うと、わたしもつらくなってもらい泣きしちゃいました。
今日、園長室にはその事故で遺族の救済を担当してた弁護士の先生も来てて、意外な話をしてくださいました。事故の後、遺族には政府から一千万円のお見舞金が支払われたそうなんですけど、わたしを引き取ってた母方の叔父さん夫婦がそのお見舞金を自分たちのものにしちゃって、お金が手に入ったらわたしを育てることを放棄しちゃったそうなんです。
たまたま様子を見に来てた園長先生がその事実を知って、児童相談所に通報してくれて、わたしは保護されたそうなんですけど。叔父さん夫婦はわたしへの養育権を奪われて、わたしは一時的に預けられてた〈わかば園〉で暮らすことになったそうです。もし園長先生の通報がなかったら、わたしは一体どうなってたんだろう? そう思うと怖いです。
そして、弁護士の先生は叔父さん夫婦からその時に使い込んでた見舞金を全額回収したっておっしゃって、わたしに受け取ってほしいって差し出したんですけど。一千万円なんて金額、わたしには大金すぎるので二百万円だけ受け取って、残りの八百万円は「施設のために役立ててほしい」って聡美園長に渡しました。
それでも、二百万円だけでもすごい金額だけど。使い道、どうしよう……? とりあえず銀行の口座には入れておきましたけど。
それはともかく、わたしは園長先生から両親のお墓の場所を教えてもらって、クリスマス会の翌日、園長先生と二人でお墓参りに行ってきました。〈わかば園〉で聡美園長先生たちによくして頂いたこと、そのおかげで今横浜の全寮制の女子校に通ってること、そしてプロの作家になれたことを天国にいる両親にやっと報告できて、すごく嬉しかったです。
園長先生はさっそくわたしが寄付したお金を役立てて下さって、今年のクリスマス会のごちそうとケーキをグレードアップさせて下さいました。おかげで園の弟妹たちは大喜びしてくれました。まあ、ここのゴハンだって元々そんなにお粗末じゃなかったですけどね。
そしておじさま、今年もこの施設の子供たちのためにクリスマスプレゼントをドッサリ用意して下さってありがとう。もちろん、おじさまだけがお金を出して下さったわけじゃないでしょうけど。名前は出さなくても、わたしにはちゃんと分かってますから。
お正月には、施設のみんなで近くにある小さな神社へ初詣に行ってきました。やっぱりおみくじはなかったけど……。
もうすぐ三学期が始まるので、また寮に帰らないといけないのが名残惜しいです。やっぱり〈わかば園〉はわたしにとって実家でした。三年近く離れて戻ってきたら、ここで暮らしてた頃より居心地よく感じました。
三学期が始まったら、文芸部の短編小説コンテストの選考作業をもって文芸部部長も引退。そして卒業の日を待つのみです。わたしはその間に、〈わかば園〉を舞台にした新作の執筆に入ります。今度こそ出版まで漕ぎつけられるよう、そしておじさまやみんなにに読んでもらえるよう頑張って書きます! ここにいる間にもうプロットはでき上って、担当編集者さんにもメールでOKをもらってます。
では、残り少ない高校生活を楽しく有意義に過ごそうと思います。 かしこ
一月六日 愛美』
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