拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】
「愛美ちゃん、久しぶり。……っていうか、もういい加減敬語やめない? オレにとってはもう、君は妹みたいなものなんだからさ」
「あー……、うん。――ところで治樹さん、今日も仕事なの? 土曜日だけど」
土曜日なら多分、一般企業はだいたい休みのはずだけれど。
「そうなんだよ。今オレ、営業やってるんだけどさ、成績がなかなか伸びなくて。土曜日も返上して頑張ってんだ。おかげで昼メシもまだなんだよ」
と言うのが早いか、治樹さんのお腹がグゥ~~……と鳴った。ちなみに時刻は午後二時半。ランチタイムは終わっている時間である。
「愛美ちゃん、この後時間あるならオレのメシに付き合ってくんない? っていっても、この時間だとファミレスくらいしかメシ食えるところないかな」
「いいよ。わたしはお昼済ませて出てきたから、お茶とスイーツでよければ付き合うよ」
――というわけで、二人はそこから徒歩数分のところにあるファミレスに入ったのだけれど。まさかこの後、思いもよらない事態を巻き起こすことになるなんて、愛美はまだ知るはずもなかった。
* * * *
「――久しぶりだね、愛美ちゃん。高校の卒業式以来かな。元気だった?」
「うん、元気だったよ。治樹さんは……ちょっとやつれた?」
テーブルで向かい合わせに座り、治樹さんはよほどお腹が空いていたのか唐揚げ定食をモリモリ平らげている。愛美はパンケーキとホットのレモンティーでお付き合いしていた。
「社会人になるとさ、色々と大変なんだよ。……って、愛美ちゃんももう知ってるか」
「わたしの仕事は、自分がずっとやりたかったことだから。学校の勉強と執筆の両立は確かに大変だし、初めてボツを食らった時はめちゃめちゃヘコんだけど、辞めたらバチが当たっちゃうよ。それにわたし、やっぱり小説を書くのが好きだから」
自分が幼い頃から抱いていた夢を叶えたからこそ就くことができた職業だから、愛美は一生ものだと思っている。だからこそ逃げ出すことができないし、失敗しても誰のせいにもできなくて大変だけれど。
「オレ、今の会社に入って一年過ぎたけど。今さらになって気づいたよ。営業向いてねえのかなーって。だからもう、会社辞めようかどうしようか悩んでて」
「えっ、会社辞めちゃうの? 営業じゃなくて他の部署に変わるとか、そういう選択肢はナシで?」
「ああ、なるほどなぁ。そういう選択肢もアリか。オレ、辞めることしか頭になかったわ」
「それに、治樹さんには最後の手段があるじゃない。ご実家の作業着メーカーを継ぐっていう」
愛美はホイップクリームがついたフォークを魔法の杖みたいに軽く顔の横でクルリと回して見せた。
「えー、親父の会社ぁ? 小さな町工場じゃん。しがない中小企業じゃん」
「何言ってるの? 今の日本の経済を支えてるのは中小企業なんだよ。大企業だって、中小企業がなければ仕事にならないんだからね。わたしはいいと思うけどなぁ」
「…………、分かったよ。考えとく」
治樹さんは少々不満げだけれど、お父さんの会社を継ぐという道が残されているだけまだ幸せ者なんじゃないかと愛美は思う。
それに、作業服メーカーだってバカにできないのだ。今では一大アパレルブランドとなった大手作業服メーカーだってあるのだから。
「それはそうと、このこと珠莉ちゃんには話したの?」
どうして彼女ではなく自分に話したんだろうと、愛美は疑問に思った。こういう大事な話は妹の親友ではなく、恋人にまずすべきだろうに。
「あー……、うん。――ところで治樹さん、今日も仕事なの? 土曜日だけど」
土曜日なら多分、一般企業はだいたい休みのはずだけれど。
「そうなんだよ。今オレ、営業やってるんだけどさ、成績がなかなか伸びなくて。土曜日も返上して頑張ってんだ。おかげで昼メシもまだなんだよ」
と言うのが早いか、治樹さんのお腹がグゥ~~……と鳴った。ちなみに時刻は午後二時半。ランチタイムは終わっている時間である。
「愛美ちゃん、この後時間あるならオレのメシに付き合ってくんない? っていっても、この時間だとファミレスくらいしかメシ食えるところないかな」
「いいよ。わたしはお昼済ませて出てきたから、お茶とスイーツでよければ付き合うよ」
――というわけで、二人はそこから徒歩数分のところにあるファミレスに入ったのだけれど。まさかこの後、思いもよらない事態を巻き起こすことになるなんて、愛美はまだ知るはずもなかった。
* * * *
「――久しぶりだね、愛美ちゃん。高校の卒業式以来かな。元気だった?」
「うん、元気だったよ。治樹さんは……ちょっとやつれた?」
テーブルで向かい合わせに座り、治樹さんはよほどお腹が空いていたのか唐揚げ定食をモリモリ平らげている。愛美はパンケーキとホットのレモンティーでお付き合いしていた。
「社会人になるとさ、色々と大変なんだよ。……って、愛美ちゃんももう知ってるか」
「わたしの仕事は、自分がずっとやりたかったことだから。学校の勉強と執筆の両立は確かに大変だし、初めてボツを食らった時はめちゃめちゃヘコんだけど、辞めたらバチが当たっちゃうよ。それにわたし、やっぱり小説を書くのが好きだから」
自分が幼い頃から抱いていた夢を叶えたからこそ就くことができた職業だから、愛美は一生ものだと思っている。だからこそ逃げ出すことができないし、失敗しても誰のせいにもできなくて大変だけれど。
「オレ、今の会社に入って一年過ぎたけど。今さらになって気づいたよ。営業向いてねえのかなーって。だからもう、会社辞めようかどうしようか悩んでて」
「えっ、会社辞めちゃうの? 営業じゃなくて他の部署に変わるとか、そういう選択肢はナシで?」
「ああ、なるほどなぁ。そういう選択肢もアリか。オレ、辞めることしか頭になかったわ」
「それに、治樹さんには最後の手段があるじゃない。ご実家の作業着メーカーを継ぐっていう」
愛美はホイップクリームがついたフォークを魔法の杖みたいに軽く顔の横でクルリと回して見せた。
「えー、親父の会社ぁ? 小さな町工場じゃん。しがない中小企業じゃん」
「何言ってるの? 今の日本の経済を支えてるのは中小企業なんだよ。大企業だって、中小企業がなければ仕事にならないんだからね。わたしはいいと思うけどなぁ」
「…………、分かったよ。考えとく」
治樹さんは少々不満げだけれど、お父さんの会社を継ぐという道が残されているだけまだ幸せ者なんじゃないかと愛美は思う。
それに、作業服メーカーだってバカにできないのだ。今では一大アパレルブランドとなった大手作業服メーカーだってあるのだから。
「それはそうと、このこと珠莉ちゃんには話したの?」
どうして彼女ではなく自分に話したんだろうと、愛美は疑問に思った。こういう大事な話は妹の親友ではなく、恋人にまずすべきだろうに。