拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】
――その手紙を出してから一週間が経ち、二週間が経ち……。愛美がいくら待てど暮らせど、〝あしながおじさん〟からの手紙はおろか、メールすら一通も来ない。
「――はあ……」
愛美は今日も、スマホの画面を見てはため息をつく。
「愛美、おじさまからは一向に音沙汰ナシ?」
「うん……。手紙来ないのはいつものことだけど、メールも来ないなんて」
さやかに訊かれて愛美は、一段と大きなため息とともにグチった。
「……ねえ、さやかちゃん。いくら忙しくても、仕事の合間にメール一通送信するくらいはできるよね? わたし、手紙にメアドまで書いたんだよ」
「うん、そうだね。愛美からの手紙には目を通してるはずだし」
果たしてどうだろうか? さやかは〝あしながおじさん〟が絶対に愛美からの手紙を読んでいるはずだと思っているようだけれど、愛美は彼のことを信じきれなくなっていた。
「それでもさあ、意地でも返事しないってことは、わたしのことわざと無視してるってことじゃないの? 人ってそんなに平然と相手のこと無視できるもんなのかな?」
自分が嬉しかったことを、〝あしながおじさん〟にも一緒に喜んでもらいたいと思うのはワガママなんだろうか?
いくら甘えたくても、相手に知らん顔されていたらどうしようもない。
「愛美、それは考えすぎだよ。愛美のこと大事に思ってくれてるから、おじさまは助けてくれてんでしょ? 無視なんかするワケないじゃん。きっと体調崩してるとか、そんなことだと思うけどな」
「……さあ、どうだろ。わたし、もう分かんない。おじさまが何考えてるのか。わたしのことどう思ってるのか」
吐き捨てるように、愛美は言った。一旦入ってしまったネガティブスイッチは、なかなか元に戻らない。
「もしかしたら、わたしのことウザいとか面倒くさいとか思ってるかも。私の手紙に迷惑がってるとか」
「そんなことないよ。絶対ないから!」
さやかが諭すように、愛美を励ます。
「……ありがと、さやかちゃん。でもね――」
「ほらほら! 眉間にスゴいシワできてる! あんまり深刻に考えないで、ドッシリ構えてなよ。――ほら、もうすぐ学年末テストもあるしさ。それでいい報告できたら、おじさまもなんか返事くれるかもよ?」
さやかに励まされ、愛美は少しだけやさぐれかけていた気持ちが解れた気がした。
「……うん、そうだね。ありがと」
向こうの事情もまだ分からないのに、一人でウダウダ悩んでいても仕方ない。あとはひたすら待つしかないのだ。
「さて、今日はウチの部屋で一緒にテスト勉強する?」
「うん。とか言って、ホントはわたしに教えてもらいたいだけなんでしょ?」
「……うっ、バレたか。ねー愛美ぃ、お願い! 珠莉も愛美に教わりたいって。ねっ、珠莉?」
「……えっ? ええ……」
突如巻き込まれた珠莉は一瞬戸惑ったけれど、実はさやかの言った通りだったらしい。
「もう。しょうがないなあ、二人とも。じゃあ、寮に帰ろう。着替えたらすぐ行くから」
やり方は不器用ながら、二人は懸命に自分を励まそうとしてくれている。それが分かった愛美は、二人の親友の提案に乗ることにしたのだった。
* * * *
――それから一週間が過ぎ、学年末テストも無事に終わった。
けれど、愛美の体調は無事ではなく、テスト期間中から喉をやられているのかゴホゴホと咳込んでいた。
「大丈夫、愛美? カゼでも引いた?」
「ううん、大したことないよ。ちょっと喉の調子が悪いだけ」
ムリしてさやかに笑いかける愛美だけれど、実は喉の痛みだけでなく頭痛にも悩まされていた。
「そう? だといいんだけどさ。――それにしても、愛美はやっぱスゴいわ。今回はとうとう学年でトップ5に入っちゃったもんね」
「……まあね」
今度こそ、〝あしながおじさん〟に自分の頑張りを褒めてもらいたくて、愛美は必死に頑張ったのだ。たとえ、少々体調が優れなくても。
ただ――、体調が悪い時、人とは得てしてネガティブになるもので。
(もし、これでもおじさまに褒めてもらえなかったら……? もしかしてわたし、やっぱりおじさまに迷惑がられてる?)
少なからず、愛美には自覚があった。
考えてみたら、勉強に関することはほとんど手紙に書いたことがない。身の回りに嬉しい出来事や何かの変化があるたびに、手紙を出しては彼を困らせているのかもしれない。
最初に「返事はもらえない」と、聡美園長から聞かされていたのに……。
(わたしって、おじさまにとっては迷惑な〝構ってちゃん〟なのかも)
「――愛美、どした? 具合悪いの?」
一人で黙って考え込んでいたら、さやかが心配そうに顔色を覗き込んでいる。
「ううん、平気……でもないか。わたし、ちょっと思ったんだよね」
「ん? 何を?」
「おじさまは、いつもわたしの出した手紙、ちゃんと読んでくれてるのかな……って。もしかしたらうっとうしくて、読みもしないでゴミ箱に直行してるんじゃないか、って」
こういう時には、最悪の展開しか思い浮かばなくなる。
「――はあ……」
愛美は今日も、スマホの画面を見てはため息をつく。
「愛美、おじさまからは一向に音沙汰ナシ?」
「うん……。手紙来ないのはいつものことだけど、メールも来ないなんて」
さやかに訊かれて愛美は、一段と大きなため息とともにグチった。
「……ねえ、さやかちゃん。いくら忙しくても、仕事の合間にメール一通送信するくらいはできるよね? わたし、手紙にメアドまで書いたんだよ」
「うん、そうだね。愛美からの手紙には目を通してるはずだし」
果たしてどうだろうか? さやかは〝あしながおじさん〟が絶対に愛美からの手紙を読んでいるはずだと思っているようだけれど、愛美は彼のことを信じきれなくなっていた。
「それでもさあ、意地でも返事しないってことは、わたしのことわざと無視してるってことじゃないの? 人ってそんなに平然と相手のこと無視できるもんなのかな?」
自分が嬉しかったことを、〝あしながおじさん〟にも一緒に喜んでもらいたいと思うのはワガママなんだろうか?
いくら甘えたくても、相手に知らん顔されていたらどうしようもない。
「愛美、それは考えすぎだよ。愛美のこと大事に思ってくれてるから、おじさまは助けてくれてんでしょ? 無視なんかするワケないじゃん。きっと体調崩してるとか、そんなことだと思うけどな」
「……さあ、どうだろ。わたし、もう分かんない。おじさまが何考えてるのか。わたしのことどう思ってるのか」
吐き捨てるように、愛美は言った。一旦入ってしまったネガティブスイッチは、なかなか元に戻らない。
「もしかしたら、わたしのことウザいとか面倒くさいとか思ってるかも。私の手紙に迷惑がってるとか」
「そんなことないよ。絶対ないから!」
さやかが諭すように、愛美を励ます。
「……ありがと、さやかちゃん。でもね――」
「ほらほら! 眉間にスゴいシワできてる! あんまり深刻に考えないで、ドッシリ構えてなよ。――ほら、もうすぐ学年末テストもあるしさ。それでいい報告できたら、おじさまもなんか返事くれるかもよ?」
さやかに励まされ、愛美は少しだけやさぐれかけていた気持ちが解れた気がした。
「……うん、そうだね。ありがと」
向こうの事情もまだ分からないのに、一人でウダウダ悩んでいても仕方ない。あとはひたすら待つしかないのだ。
「さて、今日はウチの部屋で一緒にテスト勉強する?」
「うん。とか言って、ホントはわたしに教えてもらいたいだけなんでしょ?」
「……うっ、バレたか。ねー愛美ぃ、お願い! 珠莉も愛美に教わりたいって。ねっ、珠莉?」
「……えっ? ええ……」
突如巻き込まれた珠莉は一瞬戸惑ったけれど、実はさやかの言った通りだったらしい。
「もう。しょうがないなあ、二人とも。じゃあ、寮に帰ろう。着替えたらすぐ行くから」
やり方は不器用ながら、二人は懸命に自分を励まそうとしてくれている。それが分かった愛美は、二人の親友の提案に乗ることにしたのだった。
* * * *
――それから一週間が過ぎ、学年末テストも無事に終わった。
けれど、愛美の体調は無事ではなく、テスト期間中から喉をやられているのかゴホゴホと咳込んでいた。
「大丈夫、愛美? カゼでも引いた?」
「ううん、大したことないよ。ちょっと喉の調子が悪いだけ」
ムリしてさやかに笑いかける愛美だけれど、実は喉の痛みだけでなく頭痛にも悩まされていた。
「そう? だといいんだけどさ。――それにしても、愛美はやっぱスゴいわ。今回はとうとう学年でトップ5に入っちゃったもんね」
「……まあね」
今度こそ、〝あしながおじさん〟に自分の頑張りを褒めてもらいたくて、愛美は必死に頑張ったのだ。たとえ、少々体調が優れなくても。
ただ――、体調が悪い時、人とは得てしてネガティブになるもので。
(もし、これでもおじさまに褒めてもらえなかったら……? もしかしてわたし、やっぱりおじさまに迷惑がられてる?)
少なからず、愛美には自覚があった。
考えてみたら、勉強に関することはほとんど手紙に書いたことがない。身の回りに嬉しい出来事や何かの変化があるたびに、手紙を出しては彼を困らせているのかもしれない。
最初に「返事はもらえない」と、聡美園長から聞かされていたのに……。
(わたしって、おじさまにとっては迷惑な〝構ってちゃん〟なのかも)
「――愛美、どした? 具合悪いの?」
一人で黙って考え込んでいたら、さやかが心配そうに顔色を覗き込んでいる。
「ううん、平気……でもないか。わたし、ちょっと思ったんだよね」
「ん? 何を?」
「おじさまは、いつもわたしの出した手紙、ちゃんと読んでくれてるのかな……って。もしかしたらうっとうしくて、読みもしないでゴミ箱に直行してるんじゃないか、って」
こういう時には、最悪の展開しか思い浮かばなくなる。