拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】
(でも、さやかちゃんたちも一緒に行けるなら……)
「わたし、東京に行きたいです。来月三日、よろしくお願いします」
『分かった。ミュージカルの開演時刻とかは、また珠莉のスマホにメールで送っておくから。当日、気をつけておいで』
「はい!」
『僕も楽しみに待ってるよ。二人にもよろしく。じゃあ、また』
「――あ、待って純也さん。珠莉ちゃんに代わりましょうか?」
『う~~ん、……いいや。じゃ』
ツー、ツー、ツー……。――呆気なく通話が切れた。
「切れちゃった……」
「もう、叔父さまったら何ですの!? 私の携帯にかけてきておいて、愛美さんと話し終えたら私に代わることなく切ってしまわれるなんて!」
なんとなくバツの悪い愛美。珠莉はプリプリ怒っている。――ただし、怒りの矛先は愛美ではなく、叔父の純也さんらしいけれど。
「もしかして、ホントは愛美に直で連絡したかったんじゃないの? でも連絡先知らなかったから、珠莉にかけたとか」
「そうなのかなぁ?」
そういえば、愛美はまだ純也さんと連絡先を交換していない。愛美は純也さんのアドレスを知らないし(珠莉も教えてくれないだろうし)、当然彼の方も愛美の連絡先を知らないわけだ。
「…………そうかもしれませんわね」
さっきまでの怒りはどこへやら、珠莉はあっさり納得した。
「……? 珠莉ちゃん、どうしたんだろ? 純也さんが遊びに来てから、なんかずっとヘンだよね」
あの日から、珠莉は絶対何かを隠している。そして、急に愛美に対して親切になった気がする。
「まあねぇ、あたしもちょっと気にはなってた。でも、あのプライドの高い珠莉のことだから、訊いても教えてくんないと思うよ」
「そうだねぇ……。まあいいか」
相手が話しにくいこと、話したがらないことをムリヤリ聞き出すのは、愛美の性分じゃない。話したがらないなら、本人が話したくなるのを待つしかないのだ。
「それよりさ、愛美。早く着替えなよ。晩ゴハンの前に、早いとこ英語のグループ学習の課題やっちゃお」
「うん」
愛美は勉強スペースの隅にあるクローゼットに向かい、私服のブラウスとデニムスカートを出して制服を脱ぎ始めた。
* * * *
――その日の夜。夕食も入浴も済ませ、まだ消灯時間には早いので、三人は部屋の共用スペースで思い思いにのんびり過ごしていた。
「――あ、そうだ。わたし、おじさまに手紙書こうかな。純也さんに『東京においで』って誘われたこと、おじさまに知らせたいの」
愛美はそう言って、テーブルの上にレターセットを広げた。
最近はただ手紙を出すだけではなく、レターセットにも凝るようになってきた。シンプルなものよりも、季節感のあるものを好んで使うようになったのだ。
「うん、いいんじゃない? あたしたちはジャマにならないように、静かにしてるから」
「あ、ううん。そんなに気を遣わないで。普通にしてて大丈夫だよ」
「そう? オッケー、分かった。――ねえねえ珠莉、東京に行くときの服なんだけどさ、こんなのとかどう?」
さやかは珠莉を手招きし、手にしていたティーン向けのファッション誌のページをめくって彼女と話し始める。
愛美は普段通りの二人の様子にホッとして、改めてペンをとった。
****
『拝啓、あしながおじさん。
お元気ですか? わたしは今日も元気です。
二年生になってから、もうすぐ一ヶ月。去年の今ごろはまだ、わたしはこの学校に慣れてなくて、自分は浮いてるんじゃないかと思ってました。
でも今は、ごく普通にこの学校の雰囲気になじんでいる気がします。
文芸部の活動にも慣れてきました。一年生の新入部員の子たちとも仲良くしてます。学年は違っても、おんなじ新入部員ですから。
来月に出る部誌の新入部員特集号には、わたしの小説が巻頭に載るそうです! おじさまにも読んで頂きたいな……。
話は変わりますけど、今日の夕方、純也さんから珠莉ちゃんのスマホに電話がかかってきました。「来月の三日、珠莉ちゃんとさやかちゃんと三人で東京においでよ」って。
なんでも、東京の大きな劇場で公演されるミュージカルの前売りチケットが買えたから、一緒に観たいってことだそうです。で、そのついでに美味しいものを食べたり、ショッピングしながら街を散策するのはどうかって。
珠莉ちゃんはもちろん東京出身だし、さやかちゃんもお家は埼玉で東京はお隣だから、中学時代はよく東京で遊んでたらしいんですけど。わたしは本格的に東京の街を歩くのは初めてです。そして舞台鑑賞も初めて! すごくワクワクしてます。
そして何より、純也さんとお出かけできるのがわたしには嬉しくて。その分、ドキドキもしてますけど……。
もちろん泊りじゃなくて、日帰りですけど。連休中だから、帰りが遅くなっても大丈夫だし。もちろん外出届は出します。
そういえば、さやかちゃんが言ってたんですけど。純也さんは本当はわたしに直接連絡を取りたかったけど、連絡先を知らないから珠莉ちゃん経由で連絡してきたんじゃないか、って。もしそうだったら、これって立派なデートのお誘いですよね? でも二人きりじゃないから、わたしの考えすぎ?
とにかく、来月三日、楽しんできます♪ 帰ってきたら、また報告しますね。ではまた。
四月二十七日 愛美 』
****
――書き終えた手紙を封筒に入れて宛て名を書き終えると、あと十分ほどで消灯時間だった。
「愛美、終わった? そろそろ寝よ?」
「私、先にやすみますわ……」
「うん、今書き終わったよ。じゃあ電気消すね。さやかちゃん、珠莉ちゃん、おやすみ」
共用スペースの明かりを消し、愛美も就寝準備を整えて寝室のベッドに入った。
「――三日はどんなの着て行こうかな……」
* * * *
――そして、待ちに待った五月三日。お天気にも恵まれ、絶好のお出かけ日和。
「叔父さまー! お待たせいたしました」
「やあ、みんな。よく来てくれたね」
東京は渋谷区・JR原宿駅前。愛美・さやか・珠莉の三人は、そこで純也さんに迎えられた。
「わたし、東京に行きたいです。来月三日、よろしくお願いします」
『分かった。ミュージカルの開演時刻とかは、また珠莉のスマホにメールで送っておくから。当日、気をつけておいで』
「はい!」
『僕も楽しみに待ってるよ。二人にもよろしく。じゃあ、また』
「――あ、待って純也さん。珠莉ちゃんに代わりましょうか?」
『う~~ん、……いいや。じゃ』
ツー、ツー、ツー……。――呆気なく通話が切れた。
「切れちゃった……」
「もう、叔父さまったら何ですの!? 私の携帯にかけてきておいて、愛美さんと話し終えたら私に代わることなく切ってしまわれるなんて!」
なんとなくバツの悪い愛美。珠莉はプリプリ怒っている。――ただし、怒りの矛先は愛美ではなく、叔父の純也さんらしいけれど。
「もしかして、ホントは愛美に直で連絡したかったんじゃないの? でも連絡先知らなかったから、珠莉にかけたとか」
「そうなのかなぁ?」
そういえば、愛美はまだ純也さんと連絡先を交換していない。愛美は純也さんのアドレスを知らないし(珠莉も教えてくれないだろうし)、当然彼の方も愛美の連絡先を知らないわけだ。
「…………そうかもしれませんわね」
さっきまでの怒りはどこへやら、珠莉はあっさり納得した。
「……? 珠莉ちゃん、どうしたんだろ? 純也さんが遊びに来てから、なんかずっとヘンだよね」
あの日から、珠莉は絶対何かを隠している。そして、急に愛美に対して親切になった気がする。
「まあねぇ、あたしもちょっと気にはなってた。でも、あのプライドの高い珠莉のことだから、訊いても教えてくんないと思うよ」
「そうだねぇ……。まあいいか」
相手が話しにくいこと、話したがらないことをムリヤリ聞き出すのは、愛美の性分じゃない。話したがらないなら、本人が話したくなるのを待つしかないのだ。
「それよりさ、愛美。早く着替えなよ。晩ゴハンの前に、早いとこ英語のグループ学習の課題やっちゃお」
「うん」
愛美は勉強スペースの隅にあるクローゼットに向かい、私服のブラウスとデニムスカートを出して制服を脱ぎ始めた。
* * * *
――その日の夜。夕食も入浴も済ませ、まだ消灯時間には早いので、三人は部屋の共用スペースで思い思いにのんびり過ごしていた。
「――あ、そうだ。わたし、おじさまに手紙書こうかな。純也さんに『東京においで』って誘われたこと、おじさまに知らせたいの」
愛美はそう言って、テーブルの上にレターセットを広げた。
最近はただ手紙を出すだけではなく、レターセットにも凝るようになってきた。シンプルなものよりも、季節感のあるものを好んで使うようになったのだ。
「うん、いいんじゃない? あたしたちはジャマにならないように、静かにしてるから」
「あ、ううん。そんなに気を遣わないで。普通にしてて大丈夫だよ」
「そう? オッケー、分かった。――ねえねえ珠莉、東京に行くときの服なんだけどさ、こんなのとかどう?」
さやかは珠莉を手招きし、手にしていたティーン向けのファッション誌のページをめくって彼女と話し始める。
愛美は普段通りの二人の様子にホッとして、改めてペンをとった。
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『拝啓、あしながおじさん。
お元気ですか? わたしは今日も元気です。
二年生になってから、もうすぐ一ヶ月。去年の今ごろはまだ、わたしはこの学校に慣れてなくて、自分は浮いてるんじゃないかと思ってました。
でも今は、ごく普通にこの学校の雰囲気になじんでいる気がします。
文芸部の活動にも慣れてきました。一年生の新入部員の子たちとも仲良くしてます。学年は違っても、おんなじ新入部員ですから。
来月に出る部誌の新入部員特集号には、わたしの小説が巻頭に載るそうです! おじさまにも読んで頂きたいな……。
話は変わりますけど、今日の夕方、純也さんから珠莉ちゃんのスマホに電話がかかってきました。「来月の三日、珠莉ちゃんとさやかちゃんと三人で東京においでよ」って。
なんでも、東京の大きな劇場で公演されるミュージカルの前売りチケットが買えたから、一緒に観たいってことだそうです。で、そのついでに美味しいものを食べたり、ショッピングしながら街を散策するのはどうかって。
珠莉ちゃんはもちろん東京出身だし、さやかちゃんもお家は埼玉で東京はお隣だから、中学時代はよく東京で遊んでたらしいんですけど。わたしは本格的に東京の街を歩くのは初めてです。そして舞台鑑賞も初めて! すごくワクワクしてます。
そして何より、純也さんとお出かけできるのがわたしには嬉しくて。その分、ドキドキもしてますけど……。
もちろん泊りじゃなくて、日帰りですけど。連休中だから、帰りが遅くなっても大丈夫だし。もちろん外出届は出します。
そういえば、さやかちゃんが言ってたんですけど。純也さんは本当はわたしに直接連絡を取りたかったけど、連絡先を知らないから珠莉ちゃん経由で連絡してきたんじゃないか、って。もしそうだったら、これって立派なデートのお誘いですよね? でも二人きりじゃないから、わたしの考えすぎ?
とにかく、来月三日、楽しんできます♪ 帰ってきたら、また報告しますね。ではまた。
四月二十七日 愛美 』
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――書き終えた手紙を封筒に入れて宛て名を書き終えると、あと十分ほどで消灯時間だった。
「愛美、終わった? そろそろ寝よ?」
「私、先にやすみますわ……」
「うん、今書き終わったよ。じゃあ電気消すね。さやかちゃん、珠莉ちゃん、おやすみ」
共用スペースの明かりを消し、愛美も就寝準備を整えて寝室のベッドに入った。
「――三日はどんなの着て行こうかな……」
* * * *
――そして、待ちに待った五月三日。お天気にも恵まれ、絶好のお出かけ日和。
「叔父さまー! お待たせいたしました」
「やあ、みんな。よく来てくれたね」
東京は渋谷区・JR原宿駅前。愛美・さやか・珠莉の三人は、そこで純也さんに迎えられた。