拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】
恋する表参道♪
――それから数週間が過ぎ、G.W.が間近に迫った頃。
「相川さん、お疲れさま。もう部活には慣れた?」
文芸部の活動を終えて、部室を出ていこうとしていた愛美は、三年生の部長に声をかけられた。
彼女は前部長が卒業するまでは副部長をしていて、三年生に進級したと同時に部長に昇格した。お下げの黒髪がよく似合い、シャレた眼鏡をかけているいかにもな〝文学少女〟である。名前は後藤絵美という。
「あ、お疲れさまです。――はい、すっかり。すごく楽しいです」
「よかった。あたしも冬のコンテストの大賞作読んだよー。すごく面白かった。さすが、千香先輩が見込んだだけのことはあるわ」
「いえ……、そんな。ありがとうございます」
愛美は何だか恐縮して、控えめにお礼を言った。――ちなみに、前部長の名前は北原千香というらしい。
一年生の新入部員の子たちと一緒に入部した愛美は、最初の頃こそ「相川先輩」「愛美先輩」と呼ばれ、一年生たちから少し距離を置かれていたし、愛美自身も一年下の〝同期〟にどう接していいのか分からずにいたけれど。
最近では一歳くらいの年の差なんてないも同然で、一年生の子も気軽に声をかけてくれるようになった。敬語は使われるけれど、同じ小説や文芸作品を愛する仲間だ。
「来月に出す部誌は、新入部員特集号だから。巻頭は相川さんの作品を載せることにしたんだよ」
「えっ、ホントですか!? ありがとうございます!」
愛美も今度は、思わず大きな声でお礼を述べた。
新入部員とはいえ、自分は二年生だから、一年生の子に花を持たせてやりたいと思っていたのだ。
「うん。あの作品、みんなから評判よくてね。満場一致で巻頭に載せるって決まったの」
「そうなんですか……。なんか、一年生の子たちに申し訳ないですけど、でもやっぱり嬉しいです。――じゃあ、失礼します」
後藤部長に会釈して、愛美は親友であるさやかと珠莉の待つ寮の部屋に帰った。
それぞれ陸上部と茶道部に入った二人(さやかは陸上部・珠莉は茶道部)は、今日は部活が休みだと言っていたのだ。
「――ただいまー」
「あ、愛美。お帰りー」
部屋に入ると、すでに長袖パーカーとデニムパンツに着替えていたさやかが出迎えてくれた。
珠莉はスマホを手に、誰かと電話している様子。
「部活はどう? 楽しい? ――はい、コーラどうぞ」
スクールバッグを床に置き、勉強スペースの椅子に腰を下ろした愛美に、さやかは炭酸飲料の入ったグラスを差し出す。
「ありがと。――うん、楽しいよ。一年生の子たちとも、だいぶ打ち解けてきたかな。さやかちゃんの方は?」
「楽しいよ。まあ、練習はしんどいけど、走ってるとスカッとするんだ。記録も縮まってきてるし、うまくすれば来月の大会に出られるかも☆」
「へえ、スゴ~い! わたし、その時は絶対応援しに行くよ☆ ……ところで珠莉ちゃん、誰と話してるの?」
愛美は電話中の珠莉をチラッと見ながら、さやかに訊ねた。
「ああ。なんかねえ、ほんのちょっと前に純也さんから電話かかってきてさ。もう、ホントについさっき」
「純也さんから?」
彼の名前が出た途端、愛美の胸がザワつく。
この部屋で、四人でお茶を飲んでからまだ数週間。こんなにすぐに、また彼の名前を聞くことになるなんて思ってもみなかった。
(……純也さん、わたしに「電話代わって」って言ってくれたりしないかな……なんて)
こっそり、淡い期待を抱いてみる。自分から「珠莉ちゃん、電話代わって?」と言うのも、何だか厚かましい気がするし……。
「――えっ、愛美さんに代わってほしい? ……ええ、今帰ってきたみたいですけど」
その期待が、純也さんにも伝わったんだろうか? 彼と電話中だった珠莉が急に驚いた様子で、愛美の方を振り返った。
(……えっ? ウソ……)
愛美の胸が高鳴った。早く純也さんと話したくて、待っている時間がもどかしい。
「ええ、今代わりますわ。――愛美さん、純也叔父さまがあなたとお話ししたいそうよ」
「……あ、うん」
彼からの指示だろうか、珠莉がスピーカーフォンにした自身のスマホを愛美の前に置いた。
「もしもし、純也さんですか? わたし、愛美です」
『やあ、愛美ちゃん。純也です。こないだはありがとう。元気にしてる?』
「はい、元気です。――今日はどうされたんですか? お電話、わざわざわたしに代わってほしいなんて」
大好きな純也さんの声に胸がいっぱいになりながら、愛美はこの電話の用件を彼に訊ねた。
『うん、愛美ちゃんとまた話したくなったから』
「え…………」
『……っていうのも、もちろんあるんだけど。実はね、連休中に東京で公演されるミュージカルの前売りチケットが買えたんだ。四枚あるから、よかったら一緒に観に行けないかな、と思って。珠莉も、さやかちゃんも一緒に』
「ミュージカル……。っていうか、東京!? いいんですか!?」
純也さんのお誘いに、愛美は目をみはった(テレビ電話ではないので、純也さんには見えないけれど)。
『うん。ついでにみんなで美味しいものでも食べて、買いものがてら街を散策するのもいいね。横浜からなら日帰りで来られるだろうし。――そうだな……、五月の三日あたり。どうかな?』
「えーっと……、ちょっと待って下さいね。二人にも都合訊かないと。――どうする?」
〝相談する〟といっても、スピーカーフォンなので愛美たちの会話の内容は純也さんに筒抜けである。
「あたし、久しぶりに東京で遊びたい! 冬休みには、ウチの実家に帰る途中で品川でゴハン食べただけだもんね」
「私にとっては、東京は庭みたいなものですけど。大事なのは愛美さんの意思ですわ。あなたはどうしたいの?」
二人はどうやら行く気満々らしい。――もしも純也さんと二人きりで会うとなったら、愛美は躊躇していたかもしれない。
「相川さん、お疲れさま。もう部活には慣れた?」
文芸部の活動を終えて、部室を出ていこうとしていた愛美は、三年生の部長に声をかけられた。
彼女は前部長が卒業するまでは副部長をしていて、三年生に進級したと同時に部長に昇格した。お下げの黒髪がよく似合い、シャレた眼鏡をかけているいかにもな〝文学少女〟である。名前は後藤絵美という。
「あ、お疲れさまです。――はい、すっかり。すごく楽しいです」
「よかった。あたしも冬のコンテストの大賞作読んだよー。すごく面白かった。さすが、千香先輩が見込んだだけのことはあるわ」
「いえ……、そんな。ありがとうございます」
愛美は何だか恐縮して、控えめにお礼を言った。――ちなみに、前部長の名前は北原千香というらしい。
一年生の新入部員の子たちと一緒に入部した愛美は、最初の頃こそ「相川先輩」「愛美先輩」と呼ばれ、一年生たちから少し距離を置かれていたし、愛美自身も一年下の〝同期〟にどう接していいのか分からずにいたけれど。
最近では一歳くらいの年の差なんてないも同然で、一年生の子も気軽に声をかけてくれるようになった。敬語は使われるけれど、同じ小説や文芸作品を愛する仲間だ。
「来月に出す部誌は、新入部員特集号だから。巻頭は相川さんの作品を載せることにしたんだよ」
「えっ、ホントですか!? ありがとうございます!」
愛美も今度は、思わず大きな声でお礼を述べた。
新入部員とはいえ、自分は二年生だから、一年生の子に花を持たせてやりたいと思っていたのだ。
「うん。あの作品、みんなから評判よくてね。満場一致で巻頭に載せるって決まったの」
「そうなんですか……。なんか、一年生の子たちに申し訳ないですけど、でもやっぱり嬉しいです。――じゃあ、失礼します」
後藤部長に会釈して、愛美は親友であるさやかと珠莉の待つ寮の部屋に帰った。
それぞれ陸上部と茶道部に入った二人(さやかは陸上部・珠莉は茶道部)は、今日は部活が休みだと言っていたのだ。
「――ただいまー」
「あ、愛美。お帰りー」
部屋に入ると、すでに長袖パーカーとデニムパンツに着替えていたさやかが出迎えてくれた。
珠莉はスマホを手に、誰かと電話している様子。
「部活はどう? 楽しい? ――はい、コーラどうぞ」
スクールバッグを床に置き、勉強スペースの椅子に腰を下ろした愛美に、さやかは炭酸飲料の入ったグラスを差し出す。
「ありがと。――うん、楽しいよ。一年生の子たちとも、だいぶ打ち解けてきたかな。さやかちゃんの方は?」
「楽しいよ。まあ、練習はしんどいけど、走ってるとスカッとするんだ。記録も縮まってきてるし、うまくすれば来月の大会に出られるかも☆」
「へえ、スゴ~い! わたし、その時は絶対応援しに行くよ☆ ……ところで珠莉ちゃん、誰と話してるの?」
愛美は電話中の珠莉をチラッと見ながら、さやかに訊ねた。
「ああ。なんかねえ、ほんのちょっと前に純也さんから電話かかってきてさ。もう、ホントについさっき」
「純也さんから?」
彼の名前が出た途端、愛美の胸がザワつく。
この部屋で、四人でお茶を飲んでからまだ数週間。こんなにすぐに、また彼の名前を聞くことになるなんて思ってもみなかった。
(……純也さん、わたしに「電話代わって」って言ってくれたりしないかな……なんて)
こっそり、淡い期待を抱いてみる。自分から「珠莉ちゃん、電話代わって?」と言うのも、何だか厚かましい気がするし……。
「――えっ、愛美さんに代わってほしい? ……ええ、今帰ってきたみたいですけど」
その期待が、純也さんにも伝わったんだろうか? 彼と電話中だった珠莉が急に驚いた様子で、愛美の方を振り返った。
(……えっ? ウソ……)
愛美の胸が高鳴った。早く純也さんと話したくて、待っている時間がもどかしい。
「ええ、今代わりますわ。――愛美さん、純也叔父さまがあなたとお話ししたいそうよ」
「……あ、うん」
彼からの指示だろうか、珠莉がスピーカーフォンにした自身のスマホを愛美の前に置いた。
「もしもし、純也さんですか? わたし、愛美です」
『やあ、愛美ちゃん。純也です。こないだはありがとう。元気にしてる?』
「はい、元気です。――今日はどうされたんですか? お電話、わざわざわたしに代わってほしいなんて」
大好きな純也さんの声に胸がいっぱいになりながら、愛美はこの電話の用件を彼に訊ねた。
『うん、愛美ちゃんとまた話したくなったから』
「え…………」
『……っていうのも、もちろんあるんだけど。実はね、連休中に東京で公演されるミュージカルの前売りチケットが買えたんだ。四枚あるから、よかったら一緒に観に行けないかな、と思って。珠莉も、さやかちゃんも一緒に』
「ミュージカル……。っていうか、東京!? いいんですか!?」
純也さんのお誘いに、愛美は目をみはった(テレビ電話ではないので、純也さんには見えないけれど)。
『うん。ついでにみんなで美味しいものでも食べて、買いものがてら街を散策するのもいいね。横浜からなら日帰りで来られるだろうし。――そうだな……、五月の三日あたり。どうかな?』
「えーっと……、ちょっと待って下さいね。二人にも都合訊かないと。――どうする?」
〝相談する〟といっても、スピーカーフォンなので愛美たちの会話の内容は純也さんに筒抜けである。
「あたし、久しぶりに東京で遊びたい! 冬休みには、ウチの実家に帰る途中で品川でゴハン食べただけだもんね」
「私にとっては、東京は庭みたいなものですけど。大事なのは愛美さんの意思ですわ。あなたはどうしたいの?」
二人はどうやら行く気満々らしい。――もしも純也さんと二人きりで会うとなったら、愛美は躊躇していたかもしれない。