拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】
「――あれ? 愛美ちゃん、その服って原宿で買ってたヤツだよね?」
(やった! 純也さん、気づいてくれた!)
愛美は天にも昇るような気持ちになったけれど、それをあえて顔には出さずにはにかんで頷く。
「はい。気づいてました? ……どうですか?」
「可愛いよ。よく似合ってる。愛美ちゃんは自分に似合う服がよく分かってるんだな。いつ見てもセンスいいよね」
「え……。そんなことないと思いますけど」
愛美は謙遜した。「センスがいい」なんて言われたのは初めてだ。
ただ自分の好きな色や、この低い身長に合う服を選んだら、たまたま似合うだけなのだ。
「そういう控えめなところも可愛いんだよなぁ、愛美ちゃんは」
「…………」
愛美はリアクションに困った。純也さんは時々、真顔でこんなキザなことを言ってのけるのだ。しかも、それが全然イヤミにならないのだ。
「…………。もうそろそろ着くかな」
「……そうですね」
なんとなく純也さんの方が気まずくなったと感じたのか、彼は取ってつけたようにごまかした。
それから一分くらい歩くと、街灯ひとつない暗い川辺に人だかりができている。
「わぁ、スゴい人……」
「うん。愛美ちゃん、はぐれないように手を繋いでおこうか」
「……はい」
愛美はそっと頷き、彼が差し伸べてくれた手を取った。その手の大きさ、温もりがすごく力強く感じる。
「キレイ……! 純也さん、ホタルってこんなにキレイなんですね……」
あちらこちらで、黄色くて淡い光がすぅーっと飛び交っていて、明かりのないこのエリアを儚げに照らしている。
「知ってる? ホタルって、亡くなった人の魂が生まれ変わったものだって言われてるんだ」
「はい。何かの本で読んだことがある気がします」
だからホタルの寿命は短くて、その命は儚いのかもしれない。
「もしかしたらこの中に、君の亡くなった両親もいるかもしれないね」
「純也さん……。うん、そうかもしれませんね」
今からここで純也さんに想いを伝えようとしている我が子の背中を押すために、彼らはここにいるはずだ。
(……告白するなら今だ! 今なら言えるかもしれない)
そして、彼の優しさに心動かされた愛美は、繋いだ手に少し力を込めた。
「……? 愛美ちゃん?」
「――純也さん、わたし……。あなたのことが好きです。出会った時から、初めて話をしたあの時からずっと」
途中で一度ためらって、それでも最後まで言葉を紡いだ。
初めての告白だし、ちゃんと伝えられたかどうかは分からない。ちゃんとした告白になっているかどうかも分からない。でも、今の彼女に言える精一杯の気持ちを言葉にした。
「純也さん……?」
彼の顔を直視できずに(というか、ヒールを履いているとはいえ四十センチ近くもある身長差のせいで見えないのだ)告白したけれど、彼からの返事が早く聞きたくて、愛美はもう一度呼びかけてみる。
「僕も好きだよ、愛美ちゃん」
「…………えっ?」
彼の表情が見えない。聞き間違いかと思い、愛美は訊き返す。
「好きなんだ。君と初めて言葉を交わしたあの時から……多分ね」
すると純也さんは、今度は愛美の目をまっすぐ見てはっきり言った。「好きだ」と。
「ホントに?」
「ホントだよ。僕がこんなことでウソつける男かどうか、愛美ちゃんも知ってるだろ?」
「それは……知ってますけど。だってわたし、十三歳も年下で、まだ未成年ですよ? それに、姪の珠莉ちゃんの友達で――」
「それでもいい。好きなんだ。だから、僕と付き合ってほしい」
愛美はまだ信じられなくて、純也さんが断りそうな理屈を引っぱり出してみたけれど、それでも彼は引かなくて。
でも、愛美に断る理由なんてひとつもない。彼が自分の想いを受け止めてくれたんだから、今度は愛美の番だ。
「はい……! こちらこそ、よろしくお願いします!」
恋が実った喜びで胸がいっぱいになって、愛美は泣き笑いの表情で返事をしたのだった。
「よろしく。――じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「はいっ!」
こうして晴れて恋人同士になれた愛美と純也さんは、来た時と同じように手を繋いで千藤家への道を引き返していった。
「帰ったらさっそく、小説読ませてもらおうかな」
「……は~い。あんまり厳しいこと言わないで下さいね? わたしヘコんじゃうから」
「はいはい、分かってますよー」
という楽し気な会話をしながら、愛美は心の中で天国の両親に語りかけた。
(お父さん、お母さん、見てる? わたし今、好きな人とお付き合いできることになったんだよ!)
きっと見てくれていただろう。あの場所で飛び交うホタルに生まれ変わって――。
(やった! 純也さん、気づいてくれた!)
愛美は天にも昇るような気持ちになったけれど、それをあえて顔には出さずにはにかんで頷く。
「はい。気づいてました? ……どうですか?」
「可愛いよ。よく似合ってる。愛美ちゃんは自分に似合う服がよく分かってるんだな。いつ見てもセンスいいよね」
「え……。そんなことないと思いますけど」
愛美は謙遜した。「センスがいい」なんて言われたのは初めてだ。
ただ自分の好きな色や、この低い身長に合う服を選んだら、たまたま似合うだけなのだ。
「そういう控えめなところも可愛いんだよなぁ、愛美ちゃんは」
「…………」
愛美はリアクションに困った。純也さんは時々、真顔でこんなキザなことを言ってのけるのだ。しかも、それが全然イヤミにならないのだ。
「…………。もうそろそろ着くかな」
「……そうですね」
なんとなく純也さんの方が気まずくなったと感じたのか、彼は取ってつけたようにごまかした。
それから一分くらい歩くと、街灯ひとつない暗い川辺に人だかりができている。
「わぁ、スゴい人……」
「うん。愛美ちゃん、はぐれないように手を繋いでおこうか」
「……はい」
愛美はそっと頷き、彼が差し伸べてくれた手を取った。その手の大きさ、温もりがすごく力強く感じる。
「キレイ……! 純也さん、ホタルってこんなにキレイなんですね……」
あちらこちらで、黄色くて淡い光がすぅーっと飛び交っていて、明かりのないこのエリアを儚げに照らしている。
「知ってる? ホタルって、亡くなった人の魂が生まれ変わったものだって言われてるんだ」
「はい。何かの本で読んだことがある気がします」
だからホタルの寿命は短くて、その命は儚いのかもしれない。
「もしかしたらこの中に、君の亡くなった両親もいるかもしれないね」
「純也さん……。うん、そうかもしれませんね」
今からここで純也さんに想いを伝えようとしている我が子の背中を押すために、彼らはここにいるはずだ。
(……告白するなら今だ! 今なら言えるかもしれない)
そして、彼の優しさに心動かされた愛美は、繋いだ手に少し力を込めた。
「……? 愛美ちゃん?」
「――純也さん、わたし……。あなたのことが好きです。出会った時から、初めて話をしたあの時からずっと」
途中で一度ためらって、それでも最後まで言葉を紡いだ。
初めての告白だし、ちゃんと伝えられたかどうかは分からない。ちゃんとした告白になっているかどうかも分からない。でも、今の彼女に言える精一杯の気持ちを言葉にした。
「純也さん……?」
彼の顔を直視できずに(というか、ヒールを履いているとはいえ四十センチ近くもある身長差のせいで見えないのだ)告白したけれど、彼からの返事が早く聞きたくて、愛美はもう一度呼びかけてみる。
「僕も好きだよ、愛美ちゃん」
「…………えっ?」
彼の表情が見えない。聞き間違いかと思い、愛美は訊き返す。
「好きなんだ。君と初めて言葉を交わしたあの時から……多分ね」
すると純也さんは、今度は愛美の目をまっすぐ見てはっきり言った。「好きだ」と。
「ホントに?」
「ホントだよ。僕がこんなことでウソつける男かどうか、愛美ちゃんも知ってるだろ?」
「それは……知ってますけど。だってわたし、十三歳も年下で、まだ未成年ですよ? それに、姪の珠莉ちゃんの友達で――」
「それでもいい。好きなんだ。だから、僕と付き合ってほしい」
愛美はまだ信じられなくて、純也さんが断りそうな理屈を引っぱり出してみたけれど、それでも彼は引かなくて。
でも、愛美に断る理由なんてひとつもない。彼が自分の想いを受け止めてくれたんだから、今度は愛美の番だ。
「はい……! こちらこそ、よろしくお願いします!」
恋が実った喜びで胸がいっぱいになって、愛美は泣き笑いの表情で返事をしたのだった。
「よろしく。――じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「はいっ!」
こうして晴れて恋人同士になれた愛美と純也さんは、来た時と同じように手を繋いで千藤家への道を引き返していった。
「帰ったらさっそく、小説読ませてもらおうかな」
「……は~い。あんまり厳しいこと言わないで下さいね? わたしヘコんじゃうから」
「はいはい、分かってますよー」
という楽し気な会話をしながら、愛美は心の中で天国の両親に語りかけた。
(お父さん、お母さん、見てる? わたし今、好きな人とお付き合いできることになったんだよ!)
きっと見てくれていただろう。あの場所で飛び交うホタルに生まれ変わって――。