拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】
純也さんは明らかに面白がっている。愛美が顔を真っ赤にして固まったので、途端に大笑いした。
「……なんてね、冗談だよ。からかってゴメン! そうやってあたふたする愛美ちゃんが可愛いから、つい」
「~~~~~~~~っ! もうっ!」
愛美はからかわれたと知って、あたふたした自分が恥ずかしくなった。この「もう!」は純也さんにではなく、自分自身に対してである。
「とにかく座りなよ。っていっても、ベッドしか座る場所ないけど」
「え…………」
まだ警戒心が解けない愛美は、座るのをためらったけれど。
「大丈夫だって。僕は紳士だから。何もしないから安心して」
「……はい」
愛美は「ホントかなぁ?」と訝りつつ、シンプルなベッドに腰を下ろした。実はけっこう根に持つタイプなのだ。
「――じゃあ、原稿読ませて」
「はい」
純也さんが手の平を見せたので、愛美は原稿を全部彼に手渡した。
「ありがとう。どれどれ……」
原稿に目を通し始めた彼を、愛美は固唾をのんで見守る。
もし全滅だったら……と思うと、何だかソワソワして落ち着かない。
「……あの。下のキッチンでカフェオレでも淹れてきましょうか?」
読んでもらっている相手に気を利かせて、というよりは、この緊張感から少しの間でも離れていたくて、愛美は提案した。
「ありがとう。そうだな……、全部読み終わるまでには時間かかりそうだし。愛美ちゃんもここにいたって落ち着かないよね」
そんな愛美の心境を察して、純也さんは「じゃあ頼むよ」とその提案に乗ってくれた。
――十分後。愛美は二人分のマグカップとクッキーのお皿が載ったお盆を手にして、純也さんの部屋に戻ってきた。
「カフェオレ淹れてきました。どうぞ」
愛美の声に気づき、純也さんは原稿から顔を上げた。
「ありがとう、愛美ちゃん。ちょっと待って」
彼はアウトドア用品の詰め込まれたスーツケースから、折り畳み式の小さなテーブルを出して室内に設置してくれた。
「お盆はここに置きなよ」
愛美がそこにお盆を置くのを見ながら、彼は何やら考え込んでいる。
「うーん……、この部屋にはテーブルも必要だな」
「そうですよね……」
愛美も頷く。たまたま純也さんがアウトドア用のテーブルを持ち込んでいたからよかったものの、やっぱりテーブルはないと不便だ。
「よし。東京に帰ったら、家具屋で小さなテーブルを買ってこっちに送るとしよう」
けっこう真剣に純也さんが言うので、愛美は吹き出した。
愛美はしばらくカーペットの上に座り、クッキーをつまみながらカフェオレをすすって、原稿を読む純也さんの姿を見ていたけれど。何となく手持ち無沙汰になってしまった。
スマホは自分の部屋に置いてきたし……。
「――ねえ純也さん。まだかかりますよね?」
「うん、多分ね。どうして?」
原稿から目を離さず、純也さんが答える。
「ちょっと、さやかちゃんに電話してこようかと思って。――いいですか?」
「いいよ。行っておいで」
「じゃあ……、ちょっと失礼して。そんなに長くはかからないと思います」
――愛美は自分の部屋に戻ると、スマホでさやかに電話をかけた。
『ああ、愛美。メッセージ見たよ』
「うん、知ってる、ちゃんと返信来てたし。――今大丈夫? もうすぐ消灯でしょ?」
『大丈夫だよ。長電話しなきゃね』
それなら大丈夫だと、愛美は返事をした。そんなに長々とするような話でもないし。
「あのね、さやかちゃん。……もしかして、怒ってる?」
『はぁ? 別に怒ってないよ。なんで?』
「なんか、さっきもらった返事が……。なんていうか、『リア充爆発しろ!』的な感じだったから。ちょっと違うかもしんないけど」
愛美がそう言うと、さやかはギャハハと笑い出した。
『違うよー。あたし、マジで嬉しかったんだから。愛美の初恋が実って、親友としてめっちゃ嬉しかったんだよ。それはアンタの考えすぎ』
「ああ、なんだ。よかったぁ。でも、やっぱりさやかちゃんの言う通りだったね」
『純也さんがもう告ったも同然だってハナシ? だって、見りゃ分かるもん。純也さん、愛美にゾッコンだったじゃん。……あれ? アンタは気づかなかったの?』
「……うん、あんまり。そうじゃないかって薄々思ったことはあるけど、わたしの思い過ごしだと思ってたから」
全然、といったらウソになる。でも、自分に限って……と考えないようにしていたというのが本当のところで。
『おいおい、アンタどんだけ自分に自信ないのよ。誰が見たって純也さんの態度は、好き好きオーラ出まくってたって』
「…………う~~」
『んで? 両想いになってどうした? もうキスとかしちゃってたり?』
「まだしてないよ! さやかちゃん、面白がってない?」
〝まだ〟は余計だったかな……と思いつつ、愛美はさやかに噛みついた。……まあ、純也さんはいきなりがっついてくるような人じゃないと思うけれど。
『うん、ぶっちゃけ。だって面白いもん、アンタがうろたえてるとこ。――っていうか、純也さんは今一緒じゃないの? こんな話してて大丈夫?』
「大丈夫。純也さんには今、隣りのお部屋でわたしの小説読んでもらってるから。わたし今、自分の部屋で電話してるの」
『そっかぁ。じゃあ今ドキドキだね』
「うん……。彼からどれだけ辛口評価が下されるのか、もう心配で」
最悪の場合、四作全滅の可能性もあるのだ。そしたらきっと立ち直れないだろう。
『まあ、そんなに心配しないでさ。胃に穴空くよ。……じゃあ、ぼちぼち切るわ。消灯迫ってるから』
愛美はスマホ画面の隅っこに表示されている小さな時刻表示を見た。間もなく九時五十分になるところである。
「あー、もうそんな時間か。ありがとね、話聞いてくれて。じゃあ、また電話するよ。おやすみ」
『うん、おやすみ』
「……なんてね、冗談だよ。からかってゴメン! そうやってあたふたする愛美ちゃんが可愛いから、つい」
「~~~~~~~~っ! もうっ!」
愛美はからかわれたと知って、あたふたした自分が恥ずかしくなった。この「もう!」は純也さんにではなく、自分自身に対してである。
「とにかく座りなよ。っていっても、ベッドしか座る場所ないけど」
「え…………」
まだ警戒心が解けない愛美は、座るのをためらったけれど。
「大丈夫だって。僕は紳士だから。何もしないから安心して」
「……はい」
愛美は「ホントかなぁ?」と訝りつつ、シンプルなベッドに腰を下ろした。実はけっこう根に持つタイプなのだ。
「――じゃあ、原稿読ませて」
「はい」
純也さんが手の平を見せたので、愛美は原稿を全部彼に手渡した。
「ありがとう。どれどれ……」
原稿に目を通し始めた彼を、愛美は固唾をのんで見守る。
もし全滅だったら……と思うと、何だかソワソワして落ち着かない。
「……あの。下のキッチンでカフェオレでも淹れてきましょうか?」
読んでもらっている相手に気を利かせて、というよりは、この緊張感から少しの間でも離れていたくて、愛美は提案した。
「ありがとう。そうだな……、全部読み終わるまでには時間かかりそうだし。愛美ちゃんもここにいたって落ち着かないよね」
そんな愛美の心境を察して、純也さんは「じゃあ頼むよ」とその提案に乗ってくれた。
――十分後。愛美は二人分のマグカップとクッキーのお皿が載ったお盆を手にして、純也さんの部屋に戻ってきた。
「カフェオレ淹れてきました。どうぞ」
愛美の声に気づき、純也さんは原稿から顔を上げた。
「ありがとう、愛美ちゃん。ちょっと待って」
彼はアウトドア用品の詰め込まれたスーツケースから、折り畳み式の小さなテーブルを出して室内に設置してくれた。
「お盆はここに置きなよ」
愛美がそこにお盆を置くのを見ながら、彼は何やら考え込んでいる。
「うーん……、この部屋にはテーブルも必要だな」
「そうですよね……」
愛美も頷く。たまたま純也さんがアウトドア用のテーブルを持ち込んでいたからよかったものの、やっぱりテーブルはないと不便だ。
「よし。東京に帰ったら、家具屋で小さなテーブルを買ってこっちに送るとしよう」
けっこう真剣に純也さんが言うので、愛美は吹き出した。
愛美はしばらくカーペットの上に座り、クッキーをつまみながらカフェオレをすすって、原稿を読む純也さんの姿を見ていたけれど。何となく手持ち無沙汰になってしまった。
スマホは自分の部屋に置いてきたし……。
「――ねえ純也さん。まだかかりますよね?」
「うん、多分ね。どうして?」
原稿から目を離さず、純也さんが答える。
「ちょっと、さやかちゃんに電話してこようかと思って。――いいですか?」
「いいよ。行っておいで」
「じゃあ……、ちょっと失礼して。そんなに長くはかからないと思います」
――愛美は自分の部屋に戻ると、スマホでさやかに電話をかけた。
『ああ、愛美。メッセージ見たよ』
「うん、知ってる、ちゃんと返信来てたし。――今大丈夫? もうすぐ消灯でしょ?」
『大丈夫だよ。長電話しなきゃね』
それなら大丈夫だと、愛美は返事をした。そんなに長々とするような話でもないし。
「あのね、さやかちゃん。……もしかして、怒ってる?」
『はぁ? 別に怒ってないよ。なんで?』
「なんか、さっきもらった返事が……。なんていうか、『リア充爆発しろ!』的な感じだったから。ちょっと違うかもしんないけど」
愛美がそう言うと、さやかはギャハハと笑い出した。
『違うよー。あたし、マジで嬉しかったんだから。愛美の初恋が実って、親友としてめっちゃ嬉しかったんだよ。それはアンタの考えすぎ』
「ああ、なんだ。よかったぁ。でも、やっぱりさやかちゃんの言う通りだったね」
『純也さんがもう告ったも同然だってハナシ? だって、見りゃ分かるもん。純也さん、愛美にゾッコンだったじゃん。……あれ? アンタは気づかなかったの?』
「……うん、あんまり。そうじゃないかって薄々思ったことはあるけど、わたしの思い過ごしだと思ってたから」
全然、といったらウソになる。でも、自分に限って……と考えないようにしていたというのが本当のところで。
『おいおい、アンタどんだけ自分に自信ないのよ。誰が見たって純也さんの態度は、好き好きオーラ出まくってたって』
「…………う~~」
『んで? 両想いになってどうした? もうキスとかしちゃってたり?』
「まだしてないよ! さやかちゃん、面白がってない?」
〝まだ〟は余計だったかな……と思いつつ、愛美はさやかに噛みついた。……まあ、純也さんはいきなりがっついてくるような人じゃないと思うけれど。
『うん、ぶっちゃけ。だって面白いもん、アンタがうろたえてるとこ。――っていうか、純也さんは今一緒じゃないの? こんな話してて大丈夫?』
「大丈夫。純也さんには今、隣りのお部屋でわたしの小説読んでもらってるから。わたし今、自分の部屋で電話してるの」
『そっかぁ。じゃあ今ドキドキだね』
「うん……。彼からどれだけ辛口評価が下されるのか、もう心配で」
最悪の場合、四作全滅の可能性もあるのだ。そしたらきっと立ち直れないだろう。
『まあ、そんなに心配しないでさ。胃に穴空くよ。……じゃあ、ぼちぼち切るわ。消灯迫ってるから』
愛美はスマホ画面の隅っこに表示されている小さな時刻表示を見た。間もなく九時五十分になるところである。
「あー、もうそんな時間か。ありがとね、話聞いてくれて。じゃあ、また電話するよ。おやすみ」
『うん、おやすみ』