音楽的秘想(Xmas短編集)
 拍手の雨が、火照った私を冷やしてくれる。ゆっくりと立ち上がり、一礼。益々激しい雨が、私の上に降り注いだ。

 席に戻れば、唖然とした顔の同級生達。今回の演奏で、私に対するイメージがこっぱ微塵になったことだろう。優越感のような不思議な気持ちになりつつも、私は素知らぬ顔をして悠々と席に着く──が。目の前の背中が振り向いたことで、心臓が破裂しそうになった。



「お前、ちゃんと楽譜読めるようになったんだな。」

「何よ、その感想は。もっと他にないの?」



 彼はニヤリと笑う。相変わらず食えない人だ。そこがまた、良いのだけど。

 私は今、運命の一言を告げようとしている。彼は一体どんな顔をするだろうか。ザワザワとした喧騒の中、私は呟いた。彼だけが、この言葉をしっかりと聞き取ってくれることを祈って。



「……今の曲、あんたを思いながら弾いたんだからね。その意味、よく考えといて。」



 暫しの沈黙の後。彼は丸くしていた目を細め、再び笑う。



「……今度俺の演奏も聴かせてやるよ。俺の思いはそんなもんじゃない。」



 ──アンダンテでもアレグロでもない。私の心の音は、今、プレストだ。



fin.
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