音楽的秘想(Xmas短編集)
♪スペシャル・スマイル
 ど迫力のピアノ演奏の次が自分達の番かと思うと、ステージに立つのが怖くなってくる。でも、それを望んだのは僕と瑞希だ。僕達には、やり残している大切なことがあるんだから。

 さっきの1年生は、きっと誰かのために弾いたんだろう。僕達も今から少しだけ、“あの人”のために歌おうと思う。

 僕達の母親は、いつも笑顔を絶やさない人だった。“母は家庭の天使”という言葉を聞いたことがあるけど、本当にその言葉がよく似合っていたと思う。その温かい笑顔が目の前から消えたのは、突然のことだった。去年のクリスマス、彼女は天国へと旅立ってしまった。瑞希と二人で実家に帰る準備をしていた日、だったのに。

 たった17年しか一緒に居られなかった。あっけなく訪れた別れを、僕達は認めることが出来ずに居る。だから今日は、そんな自分達とはさよならすることにした。この先の二人のためにも、それから天国の母のためにも。



「……泉海、俺らの出番だ。」



 双子の弟が僕の名前を呼び、肩を叩いてきた。小さく頷いて返事に代える。瑞希の手は普段より熱を持っていた。彼も緊張している、ということだろう。
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