音楽的秘想(Xmas短編集)
♪僕の言葉で
 体を芯から凍らせる12月のコンサートホールは、夏生まれの僕や大多数の生徒達にとってもあまり好ましいものではないだろう。世間でクリスマスと言われる今日。僕達、聖蘭学園高等学校の生徒は、毎年恒例のクリスマス音楽祭を開催した。

 我が校はいわゆる“音楽学校”で、音楽道を志す者達が日々奮闘している。僕もその一人であり、3歳から15年間続けているバイオリンで将来名を馳せることが目標なのだ。

 初めてバイオリンを弾いた時は、何て艶(あで)やかな音色だろうと思った。時に氷上を舞うフィギュアスケーターのように滑らかに、またある時は壊れたラジオのように甲高く歌うが、何処か優雅さを残しているのがバイオリンだと思う。当時の僕が偶然目にしたテレビで興味を持たなければ、このきらびやかで上品に歌う楽器とは関わらない人生を送っていたことになる。そうすると、今の自分は幸せ者だなと考えるのが自然な流れだ。



「望、一番手でしょ?気合い入れていきなよ!」



 会場に設置された椅子に座す生徒達の列。話しかけてきたのは、隣に腰を下ろしている幼馴染み兼同級生・日下部舞(くさかべ まい)だ。高鳴る僕の鼓動に気付かない無邪気さが憎らしい。
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