音楽的秘想(Xmas短編集)
 彼女に恋をしたのは、もう何年も前の話。小学生の頃から一緒だから、かれこれ12年程の付き合いだろうか。人見知りが激しく口下手な僕にとって、舞のような存在は昔から貴重だった。冷たく突き放してしまっても、何度も何度も向き合おうとしてくれる人が、僕には必要だったのだ。

 口ごもった時、意図していることをさりげなく汲み取ってくれる優しさ。憎まれ口にも平気で言葉を返してくる強さ。舞の側に居れば不思議と落ち着く、と感じた僕が恋をするのに時間はかからなかった。

 気付けばいつしか、彼女は僕の気持ちを代弁出来るまでになっていた。僕達の距離が近付いた、ということでは決してない気がするが。



「それにしても望、何でこの曲にしちゃったの?この前までは『G線上のアリア』だって言ってたのに……」

「……別に?心境の変化だよ。クリスマスだし、それっぽい曲の方が良いかなって思っただけ。プログラム見るとクリスマスソング少ないし、結果的に良かっただろ。」



 舞は納得いかないのか、僕の返事を受けて口をへの字に曲げる。『G線上のアリア』は僕が大好きな曲だ。それを別のに変えたのが、彼女としては不思議だったのだろう。
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