音楽的秘想(Xmas短編集)
♪不器用なラブソング
 初めて音楽祭の発表順を聞かされた時は、少なからずびっくりしてしまった。まさかこのあたしが、名誉ある聖蘭のクリスマス音楽祭のトリを務めることになるなんて。でも、決められたからにはやるしかない。実はちょっとだけ、自分オイシイな、なんて思っていたから。

 あたしは今日、ある思いを胸に舞台へ立つ。臆病なあたしが三年間温めてきたこの気持ちを伝えることは、こんな機会がなければ到底出来やしないだろう。

 学科も違い、あまり接点もないあいつ──響友宏(ひびき ともひろ)は、同い年でギター学科に属する、いわゆるイケメン。「ギター学科の方々はガサツで品がなくって嫌だわぁ」などと言っていたピアノ学科のお嬢様達も、あいつだけは特別扱いするらしい。媚びを売ろうと毎日必死なのだ。

 初めてあいつと話したのは、1年の6月頃にあった、他学科との交流を深める親睦会。ピアノ学科に所属するあたしの相方・優乃と共に、挨拶代わりに一曲披露したすぐ後のこと。



『……お前すっげーな!こんな歌上手い奴、初めて見た!!』



 興奮気味の彼は自分の演奏も聞いて欲しいと言い、あたし達をズルズルと自分の相棒の元へ引きずったのだった。
< 22 / 40 >

この作品をシェア

pagetop