音楽的秘想(Xmas短編集)
 ──あいつの演奏は、一言で言うと凄かった。キレと迫力があって、尚且つ滑らかで優しい。こんな音は、生きてきて一度も聞いたことがなかった。

 あいつの声も、良かった。聞く人を包み込むような温もりを秘めていて、ギター学科だけに席を置いているのが惜しいと思えた程。こいつが同じ学科だったらと思うとゾッとした。きっとあたしは、嫉妬に溢れて醜い感情を持ってしまう。あいつの音楽は鳥肌ものだった。

 それからあたし達は、廊下で会う度によく立ち話をするようになった。高2の冬には有名な音楽会社からデビューの話をもらったんだということを聞かされた。『他の奴らにはまだ内緒だからな』と言っていたあいつの悪戯な笑みは、悔しいけどとてもかっこ良かった。

 あたしがデビュー出来る日は、一体いつなんだろう。ちょっと歌が上手いだけで、光る物が何もないこんなあたし。あいつのように人を惹き付ける物があったら……その感情は、嫉妬でもあり尊敬でもあり、恋だった。

 あいつには、好きな素振りなんて一切見せたことがない。照れ臭くて、ついつい可愛くない自分になってしまう。だけど、今日は違う。あたしは優乃と一緒に、この思いをあいつに届けるんだ。
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