音楽的秘想(Xmas短編集)
 あいつ──坂下麻里絵(さかした まりえ)と知り合ったのは、丁度教え子達くらいの年の頃。俺はギター学科に居て、あいつも同じ学科に所属していた。ピアノを弾きそうな顔をしているクセに、というのがあいつの第一印象だった。お嬢様面した奴がここに居るんじゃねぇ。そんな俺の考えは、すぐ様破壊されることになる。

 麻里絵は筋金入りのロック好きで、エレキの腕はそこらの男子達に勝るとも劣らなかった。ビートルズでもローリングストーンズでも、とにかく何でも弾きこなす。“麻里絵はギター学科の姫だ”と誰かが言っていたが、今思えばそうだったのかもしれない。麻里絵は声も絶品で、その声一つだけで大金が保証されると言っても過言ではなかった。

 そんな姫君と付き合うことになったのは、高1の冬のこと。単純野郎だった俺は、誰かに“あいつ、お前のことが好きらしいぜ”と言われ、知らない内に麻里絵を目で追うようになっていたのだった。

 噂は本当で、告白した俺に麻里絵は、嬉しそうに『夢みたい!』と言って抱きついてきた。俺だって夢みたいだよって、今なら返せるのに。あの頃の俺は、あいつの言葉に微笑むことしか出来なかった。
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