「ひだまり」くん。
であい。
「…っ」

――嫌なこと、思い出した。
私は本の世界から現実に強制的に引き戻されて、顔を思い切り歪める。
どうしてあんなこと急に思い出しちゃったんだろう。

私は「嫌なこと」を忘れるように、深呼吸をしながら本を一度閉じて外を眺める。

図書館の窓から見える景色は、とても明るい。
もちろん昼だからというのもあると思う。いや、昼だから明るいんだろう。
それだからだろうか、私に比べるととてもじゃないくらい美しくて、明るく映るこの窓からの景色は、少し痛いように思われた。
ちくちくとじりじりと。
「お前はこちらの人間じゃない」とずっと耳元で囁きかけられながら夏の日差しのように肌を痛めつけていく。

「そんなこと、わかってるよ」

私は俯いて小さく一言。
わかってる。
そんなに明るくて素敵な場所に存在していい人物じゃない。それくらいとっくのとうにわかっているんだ。


思い出した「嫌なこと」は、何年前のことだろうか。ふと、私は先ほど脳裏に浮かんできた思い出のことについて考え始める。

そう。確か、自分のことがよく分かり始めた頃のことだった気がする。中学生ぐらいの話だ。

自分の身勝手な感情に振り回されていたあの頃は、全てのことが嫌だった。
自分が悪いとわかっていても、他人のせいにして。
なんにもできなくて。不器用でどうすればいいのかわからなくって。
それを悩んでいるうちに友達なんか一人もできなくて。

それからもう何年も経って、私はすっかり大人になってしまったのだけれど、それでもやっぱり不器用で陰キャでコミュ障なところは治っていなかった。

「なんで、私なんか生きてるんだろうね」

誰に聞かせるわけでもない、小さな独り言。

他人を避けて、他人のせいにしてずっと生きてきた私はもちろん誰とも関わったことがない。
せいぜい、先生くらいだ。あとは親戚。
生きていく中で交流しなければならない人としか関わったことがないのである。
それでも生きているんだからいいのかなと思うけど。
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