【2/16 番外編追加】同期の姫は、あなどれない
達した彼女の中に自分も熱をほどいて、しばらくは互いの荒い呼吸だけが響く。くたりと力なく横たわったゆきのに体を寄せると、あの匂いは消えていた。
「もう消えてる」
俺の呟きに、あっと小さく息を漏らすも、どこか納得のいっていないふうで、こちらを恨みがましく見る。
「……だからあんなにいじわるだったんだ」
「どの辺が?」
「…っ、そういうところが!」
にやりと視線を向けると、ゆきのは体を起こして俺の腕を力いっぱい叩く。 これなら大丈夫そうだ。 抗議するゆきのを横目に、シーツの上に無防備に放り出された脚をなぞると、信じられないものを見る目で見ている。
「ちょっと待って、明日早いんじゃ……!」
「明日の朝?」
「だから、データセンターの作業!」
「ないよ」
即答した俺に、ゆきのは文字通り固まった。
「ここまで来る口実がそれしか浮かばなかっただけ。だから問題ない」
そう言うと、口をぱくぱくさせてから「信じられない!」と叫んだ。
「それに、」
汗で張りついた髪を耳にかけてやってから、彼女の唇を確かめるように親指でなぞった。
「着替えもないしな?」
それから先は、時間の感覚がなくなった。
おもむろにスマホの時間を見ると、思った以上に時間が経っていた。隣りではぷつりと意識を手放すように眠りに落ちたゆきのが、小さく寝息を立てている。
耳の裏、首筋、鎖骨と指で滑らせてみる。最初は起こさないように気を使っていたが、よほど疲弊しているのか目覚める気配がない。
いつもならくすぐったさで身じろぎするけれど、今はぴくりとも動かなかった。
(さすがに、無理させすぎたか)
それでも、いつもの知った彼女の香りに安心して、額にひとつキスを落とす。
自分の腕の中で蕩けさせて、ぐずぐずにして。
誰の目にも触れさせず、ずっと閉じ込めておきたいと思った。
恋とか愛とか、そういう生易しいものとも違う。
嫉妬か、執着か。
自分の思考の危うさに少しだけ戦慄する。
他人にこんな感情を抱いたのは初めてで、持て余し気味のそれをどうしたらいいのか分からない。
ふと、ゆきのはどうなのだろうかと想像する。
同期会に誘っておいて、楽しそうに話すのを見て嫌だったとむくれた姿を思い出して笑いが込み上げた。俺ほどの重苦しさはなくても、少しは似た感情を持っていてくれているだろうか。
できればもう少し、こちらの重さに追いついてほしいところだけれど。
そこまで巡らせると、途端に沈み込むような疲れが襲う。
だんだんと思考が溶けて、何も考えられそうにない。
眠りに落ちる前に、もう一度ゆきのの頬に手を伸ばした。
―――おやすみ、いい夢を。
隠せない場所に散らされた執着の証。
翌朝それに気づいた彼女の抗議の声で起こされるのは、また別の話だ。
「もう消えてる」
俺の呟きに、あっと小さく息を漏らすも、どこか納得のいっていないふうで、こちらを恨みがましく見る。
「……だからあんなにいじわるだったんだ」
「どの辺が?」
「…っ、そういうところが!」
にやりと視線を向けると、ゆきのは体を起こして俺の腕を力いっぱい叩く。 これなら大丈夫そうだ。 抗議するゆきのを横目に、シーツの上に無防備に放り出された脚をなぞると、信じられないものを見る目で見ている。
「ちょっと待って、明日早いんじゃ……!」
「明日の朝?」
「だから、データセンターの作業!」
「ないよ」
即答した俺に、ゆきのは文字通り固まった。
「ここまで来る口実がそれしか浮かばなかっただけ。だから問題ない」
そう言うと、口をぱくぱくさせてから「信じられない!」と叫んだ。
「それに、」
汗で張りついた髪を耳にかけてやってから、彼女の唇を確かめるように親指でなぞった。
「着替えもないしな?」
それから先は、時間の感覚がなくなった。
おもむろにスマホの時間を見ると、思った以上に時間が経っていた。隣りではぷつりと意識を手放すように眠りに落ちたゆきのが、小さく寝息を立てている。
耳の裏、首筋、鎖骨と指で滑らせてみる。最初は起こさないように気を使っていたが、よほど疲弊しているのか目覚める気配がない。
いつもならくすぐったさで身じろぎするけれど、今はぴくりとも動かなかった。
(さすがに、無理させすぎたか)
それでも、いつもの知った彼女の香りに安心して、額にひとつキスを落とす。
自分の腕の中で蕩けさせて、ぐずぐずにして。
誰の目にも触れさせず、ずっと閉じ込めておきたいと思った。
恋とか愛とか、そういう生易しいものとも違う。
嫉妬か、執着か。
自分の思考の危うさに少しだけ戦慄する。
他人にこんな感情を抱いたのは初めてで、持て余し気味のそれをどうしたらいいのか分からない。
ふと、ゆきのはどうなのだろうかと想像する。
同期会に誘っておいて、楽しそうに話すのを見て嫌だったとむくれた姿を思い出して笑いが込み上げた。俺ほどの重苦しさはなくても、少しは似た感情を持っていてくれているだろうか。
できればもう少し、こちらの重さに追いついてほしいところだけれど。
そこまで巡らせると、途端に沈み込むような疲れが襲う。
だんだんと思考が溶けて、何も考えられそうにない。
眠りに落ちる前に、もう一度ゆきのの頬に手を伸ばした。
―――おやすみ、いい夢を。
隠せない場所に散らされた執着の証。
翌朝それに気づいた彼女の抗議の声で起こされるのは、また別の話だ。


