同期の姫は、あなどれない
 「居酒屋なんて嘘でしょ。もしかしてその女の人の部屋?」

 「だから、違うって言ってんだろ」

 「……お願いだから、嘘つかないでよ。それとも私なら簡単に騙せるって思ってるの?」

 たぶん、というか間違いなく親しい女性がいるのは確実だった。

 遠距離恋愛中の浮気。
 自分には無縁だと思っていたことが現実になって、ショックな気持ちもある。

 でも、それよりも。

 辻褄の合わない出まかせを、平気で淀みなく話す賢吾が怖くなった。

 自分が好きになった人はこんな人だったのだろうか。
 今まで何も疑わずに全部信じていたけれど、実は気付いていない嘘もあったのかもしれない。

 怖い。
 楽しく幸せだと思っていた2年間さえも、嘘だったのかもしれないことが。

 「さっきの女の人のことが好きなの?」

 自分で言っていて、自分の言葉に傷つく。

 「いつから?」

 黙ってないで、何か言ってよ。

 「もしかして、先輩とキャンプっていうのも嘘?その人と旅行に行くの?」

 「違えよ、キャンプは本当」

 (キャンプ『は』本当、ね……)

 それ以外はほとんど嘘だと言っているようなもの。
 語るに落ちるとはこのことだ。

 でも、もう今さらそのことを指摘する気にもなれなかった。
 言ったところで、また嘘の上塗りをされるだけなんだから。


 そのあと、どうやって電話を切ったのか、私はよく思い出せなかった。
 ただ電話を切ったあと、

 (今日が金曜日でよかった、明日を気にしないで思いっきり泣ける)

 と思ったことだけは覚えている。


 そしてその日以降、賢吾との連絡は途絶えてしまったのだった。


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