同期の姫は、あなどれない
 本人は終電までいる気満々だったけれど、さすがにそこまで付き合わせるのは先輩として気が引ける。その代わりに、明日の朝少し早く出社してもらうことで納得して退社してもらったのだった。

 「早瀬と吉沢はいいコンビだな」

 「そうですね、吉沢さんはポイントを説明するだけですぐ理解して動いてくれて、すごく助かります。今回のトラブルは保守を1年やってきて初めてのケースでしたけど、リカバリーもそつなく対応してくれましたし」

 今日の倫花ちゃんの働きぶりを話しながら、お昼の会話を思い出した。
 そうだ、ここでちょっと課長にアピールしておこう。

 「あの、四宮課長。S製薬の案件なんですけど、開発メンバー探してましたよね?吉沢さんとかどうですか?」

 課長はふとマウスをスクロールする手を止めて、少し考えこむ。

 「吉沢か。今抜けられると痛くないか?開発メンバーにアサインされるとがっつり工数取られるぞ。早瀬だって来月から半分はS製薬案件だろ?」

 確かに抜けられるのは痛い。でも倫花ちゃんには能力も十分あるし、設計開発フェーズが始まるのは早くても秋以降から。それまでに後任に引継ぎできていれば、保守の方は回していけるはず。
 何より本人がやりたいことにチャレンジしてもらいたいし、チャンスがあるならやらせてあげたい。

 「そうか。早瀬がそこまで考えているなら、候補にピックアップしとく。まあ開発フェーズが取れるかは要件定義にかかってるからな?」

 「うわー、急にプレッシャー……」

 「はは、ほどほどに頑張れ。資料もこの内容でいい。残りも要点さえ押さえていればいいから」

 クツクツと笑いながら、四宮課長は自席へと戻っていった。
 よし、とりあえず倫花ちゃんの件は課長におまかせしよう。

 私は残りの資料作成に取り掛かり、内容の誤りや誤字がないかざっとチェックしたあと、四宮課長に確認依頼のメールを送信した。

 
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