世界はそれを愛と呼ぶ
─そして、その時、奥様の瞳が揺らぐ。
それを、悠陽は見逃さなかった。
(相馬の言っていた通り、隠された子供がいるんだろうな……この家に伝わる能力を有した、ひとりで生まれてきた、一人っ子の男の子……ねえ……)
奥様は、第三夫人だという。
第一夫人と第二夫人は、当主の要望に答えられず、恐らく、殺されてしまったと。
(子どもの性別が、思いどおりになってたまるか……義務教育、受けてこなかったのか……?大体、性別は男のせいで決まるものだが……)
悠陽が口出す問題でもないので、小さく、気づかれないようにため息だけをこぼすことにする。
「年齢も同じですし、どちらかといえば、双子では?」
「アハハッ、そうかも。─そういや、悠陽は双子なんだよね?弟さんも一緒に来るって聞いたよ」
「ああ……さっき、案内されている時、書庫で目を輝かせていたから、帰ってこないと思います」
「そうなの?」
「あいつ、昔から本の虫なんですよ……あいつ曰く、母親がよく絵本を読み聞かせてくれた記憶があるらしくて……双子のはずなのに、俺は虫を捕まえていた記憶しかないですが!」
「昔から、元気いっぱいだったんだね〜」
「少し大人しくしろとは、今もよく言われます。
─俺、一応、高校生なんですけど」
「アハハハッ」
凌くん曰く、こんなに彼が笑うことはないらしい。
いつも死んだように生きていて、笑っているところは初めて見たと、奥様も涙ぐんで。
─その後、冬陽は稽古のために席を外した。
それの護衛で、凌くんもついて行った。
名残惜しそうな姿に『とっておきを用意しておきます』と宣言し、悠陽は待つことにする一方。
優しい目でこちらを見てくれる彼女に、悠陽は微笑んで、話しかけることにした。
夏陽は思い出の記憶が、悠陽は環境の記憶が。
幼い頃、同じことは覚えなかった。
覚える必要がなかった。
だって、折角、目がよっつあるのに。
同じものを覚える必要が無かったから。
だから、夏陽は言ったのだ。
『気になることがある』と。
なお、先程話した、絵本を読んでくれた母親は、麻衣子母さんのことではない。読んでくれたけど、それよりも、もっともっともーーーっと、昔の記憶。
その記憶を捨てられなかった夏陽が、施設で膝を抱え、『お母さんに会いたい』と泣く度、悠陽は夏陽を抱き締めたし、だからこそ、抱き締めてくれる人が欲しくて、ふたりで施設から脱走した。
そこで母さんたちに拾われて、今がある。
「─秋乃様、色んな話を冬陽様にさせていただいたんですけど、あんな感じで良かったですか?」
「ええ、勿論よ。ありがとう。すごく楽しそうで……あの子、今日の稽古はいっそう頑張るんですって」
「それは良かった」
他愛ない話をしながら、悠陽は冬陽に許可を得て借りていたメモに【聞きたいこと】を記し、彼女に渡す。
彼女はそれを素直に受け取り、開き、見ると、小さく頷いた。
悠陽が書いたのは、『この部屋に盗聴器があるかどうか』である。監視カメラは部屋にないことは確認済、記したものも後で確認されると聞いていたので、最後の確認。
下手なことは聞けないし、彼女も話せないことを承知の上で、悠陽は頷きと首振りで答えられる質問を記し、貫くことにした。