世界はそれを愛と呼ぶ


「─ここがね、私の部屋」

ついて行くと、差し込む光。
暖かい陽光は、彼女の部屋の前の廊下を照らしている。

「ここは……月見障子なんですね」

「ええ。明かりがよく入るし、向こう側はただの壁だから、ただの私達の箱庭として、この庭は楽しめるようになっているのよ」

お姉さんはそう言うが、正直、箱庭サイズではない。
少なくとも、5人くらいの子供が走り回ってもぶつからないくらいの広さがあり、また、美しい花々は咲き誇っていて、目を楽しませてくれる。
まぁ、全体規模を考えれば、箱庭だろうけど……。

「さぁ、どうぞ」

「お邪魔します」

お姉さんの部屋は、とても物が少なかった。
最低限の鏡台、箪笥、端で畳まれている布団。

「年頃の女性にしては、物が少ないでしょう?よく言われるのだけど、外に出ることがないから、増えないの。外商は来るけど、家から出ることはないから、何も買ったことがなくて……着物は、お母様の遺されたもので充分だし……」

彼女の視線の先、微笑む女性の写真。

「よく似ているでしょう?私」

「はい、とても」

写真の中で微笑む、先代姫巫女。
お姉さんを含む、相馬たち5人を産み落とした人。

「よく似ているからこそね、家族は皆、私がお母様の二の舞にならないか、心配しているの。お母様の件があって、貴重な姫巫女を失えないと考えたのでしょうね。私の意志もあるけど、私は学校に通ったことがないの。産まれて22年間、この大きなお屋敷から出たことがないのよ」

つまり、義務教育を受けたことがないということ。
それでも許されるのは、御園家という強大な家のおかげなのだろうか。

黒橋の街ですら、義務教育とは違えど、教育の権利は保証され、通学は義務付けられているのに。

「それでもね、私はお母様と同じにはならない。だって、私にはお祖父様も、お祖母様も、伯父様、伯母様、兄弟達……沢山の人がいるから。孤独になることはないの。だからね、本当に不幸ではないの」

お姉さんはそう言いながら、お母様の写真を手に取る。

「私がね、兄弟の中では1番、お母様と過ごした時間が長いの。いつも泣いている人だったわ。いつも不安そうで、愛に縋る人だった。両親を早くに亡くし、幼い弟とは引き離され、姫巫女としての任務を課せられるばかりの人生の中で、お母様が見つけた光は、お母様を間接的に拒絶したの」

「伯父さん、のことですか」

「ええ。相馬から、ある程度聞いているのでしょう?─その通りよ。番を見つけることが遅かった陽希伯父様が、お母様の初恋だった。でも、年齢は20歳近く離れているのよ。まともな大人なら、手を出さないわ。冗談だって思う。本気だとしても、成人済みの社会人が小学生に手を出すなんてありえないでしょう?

でも、お母様は冗談ではなかったの。本気で、伯父様が好きだったらしいの。……今考え直せば、姫巫女は元々、初代当主の能力が受け継がれてきているのだもの。その伴侶であった鬼帝の能力を受け継ぎし、陽希伯父様に、お母様が惹かれるのはおかしいことじゃない。

陽希伯父様の番は遅れてでもちゃんと見つかったし、番は唯一だから、お母様は絶望に伏したわ。そして、お母様はお父様を利用したのよ。お母様に一目惚れしていた、伯父様の弟であったお父様を利用して、騙して、自分の安寧の地を手に入れる為だけに、お父様の尊厳を踏み躙り、お兄様を作ったの」

鬼帝を再度、この世界に生み出す為に。

「伯父様が帝で無くなれば、発作は治まる。」
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