世界はそれを愛と呼ぶ



「─大丈夫よ、水樹」

京子姉さんはそこに立っていて、桜を見上げていた。

「大丈夫。悪い気配は感じないから。相馬の結界が施され、契約を結んでいる彼女が容易に攫われる時点で、危険性が無いことは証明されているわ。この国を、御園家をずっと見守ってきてくれた桜よ。少し待ちましょう」

京子姉さんが微笑むと、夏鶴と冬璃も口を噤んだ。
そして、小さく会釈して、姉さんの意志に従うらしい。

「〜♪」

静かになった空間の中で、姉さんが歌う。
安らぎや癒しを与える声は、夏鶴達の小さな傷も癒していき、桜の木も嬉しそうに揺れて。

「満足したら、沙耶、帰してね」

京子姉さんの言葉に答えるように、花びらが舞い、姉さんが伸ばした手のひらに落ちる。

「ありがとう」

─姉さんの横顔は綺麗で、水樹達が恐れた、歪んだ母親の横顔とは似ても似つかなくて。

(……姉さんを過剰に守る体制を変えなくちゃ)

幸せになって欲しい。優しい人だから。
幸せになるべき人だから。

最愛の人と、生涯を楽しく満喫して欲しい。

(相馬兄さんに、相談しなきゃな……)

まだ、相談ありきな自分の無力さを歯痒く思いつつ、水樹は京子の意思に従い、時が過ぎるのを待った。


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