世界はそれを愛と呼ぶ
─……カタンッ
………………物音がした。
沙耶は立ち上がって、その部屋の縁側に出た。
飲み込まれそうなほど明るく、丸い月が輝いている。
─月が、満ちている。
目の前で、最愛の彼は呼吸が荒くなっていた。
少しばかりの返り血と、ツノと、牙と、あと─……。
「…………っ!」
力づくで、部屋に連れ込まれる。
言葉を交わす間もなく、強く抱き締められる。
時刻は、深夜二時。
相馬がいつ帰ってきてもいいように、用意して貰ったふたりで過ごせる寝室。
そこで寝泊まりしていた沙耶は、抱き締め返す筈の腕ごと抱き締められて、強い力に痛みを覚えながらも、彼の温もりに甘えた。
読んでいた本は端の机に置きっぱなしで、(今日は満月だったんだな)と、頭の隅でぼんやりと。
「………………おかえり、相馬」
彼に届くかは分からない。彼は今、いないのかも。
だって、彼はこんなふうに抱きしめないから。
優しく、優しく抱きしめてくれる優しい人だから。
(でも、どっちでもいいの。あなたがあなたであるなら)
名前を呼ぶと、少し力が緩んだ。
だから、その隙に腕を引き抜いて、彼の背中に回す。
甘えるように、彼の胸に頬を寄せて。
「……会いたかった。頑張ったんだよ、私」
私以上にめちゃくちゃ頑張ってくれた人に言うことでも無いかもしれないけど、それでも、沙耶は頑張った。
「いっぱい、いっぱい……褒めてね」
彼との距離が開く。視線が交わる。
赤くなった瞳に宿る衝動に、沙耶は笑った。
「愛してる」
─それから1週間ほど。
ふたりが部屋から出てくることはなかった。