世界はそれを愛と呼ぶ
「─わざわざ相馬様にお出になっていただく必要はありません。これは、四季の家の問題ですもの」
「だがな、仁知華……」
「希雨さまの件などに関しましては、御心配なさらず。少し前に連絡を飛ばしておいたので、そろそろ顔を出してくださると思いますよ」
皇仁知華─現時点で理解できているのは、あの冬の天ヶ瀬当主である男が生涯で唯一愛した女の忘れ形見の娘であり、天ヶ瀬の本来の後継者である冬の能力持ちであり、我が甥である御園総一郎の番であるということ。
底知れぬ沼のような、こちら側に全てを見せないあり方はとても総一郎にそっくりで、陽向は頭が痛くなるのを感じた。
「…………その仕草、総一郎に似ていますね」
頭を押さえていると、彼女は懐かしむように笑う。
「仁知華、」
「総一郎に会いたいなぁ……二度と叶わないけど」
「仁知華、あなたはもう頑張ったでしょ。頑張りすぎるほど頑張ってきたんだから、もう、自分を許して……」
「ダメですよ、千華様」
千華の言葉を遮って。
「……酷い女なんです、私。番だと言われ、唯一、彼を救えることを理解した上で、私は死ぬことを選んだ。あの人から永遠に去る道を選んだんです。─死んでもいいと思ってました。生き返った後、狂ったあの人を見るまでは」
ぽたり、と、彼女は大きな瞳から雫を落とし。
「あの人のために死ねない、って、1度死んでから、私は思ったんですよ。─ねぇ、千華様、どうして怒ってくれないんですか?どうして、責めてくれないんですか。ここには殴られる覚悟で来たんですよ」
千華を見ると、千華は泣きそうな顔をしていた。
ぼろぼろと泣き出した仁知華を見て、苦しそうで。
「私が産まれてきたから、悲劇は始まったんだって……っ、そう言った私に言いましたよねっ?そんなことないって、私を必要としてくれる人はいるって!私はその人を裏切りました!人の縁は大事にするようにって、大切な事は忘れないようにって、あなたに貰った名前に反してっ、私、私はっ!!」
「仁知華……やめなさい、自分を傷付けるのは……」
「ねぇ、千華様...?私は総一郎のそばに居たくありません。あの人が幸せになればそれで良かったんです。”穢れた私”にはその資格がないから……だからっ」
「仁知華!」
ぎゅっ、と、千華が抱きしめる。
ガタガタと震える仁知華が、心の底に抱えるもの。
「代償を、どうして払ったの……どうして、そんなものを払ってまで、貴女は!」
「時間が無いから……愛しているから、です」
「そんなことをしたって、総一郎は喜ばない!」
「……っ」
千華が見てきたもの。
千華が経験してきた道。
それをあえて追求しなかったのは、この家から抜け出した彼女がたまに帰省する大切な時間に、嫌な思い出をこの家で増やして欲しくなかったから。
「─ここまで、私のところに帰ってきたことは褒めるわ。でも、それ以外はお説教よ。勿論、その酷い顔色を治してからね」
ふわり、と、千華が彼女の額に手をかざす。
「─大丈夫。目覚めた時に全部、上手くいくから」
千華のその一言に、抵抗を示した仁知華は為す術もなく、千華の腕の中で眠りの世界へ落ちていく。