世界はそれを愛と呼ぶ
「─全く、私にこの術を使わせるの、この子くらいよ」
溜息をつき、彼女を易々と抱き上げる千華。
恐らく、夢の世界へ落ちる術だ。
千華は幼い頃から精神に干渉する術に強く、姫の能力よりもそちらを強くすることにハマっていた。
だからこそ、姫の役目を強要してくるやつらに飽き飽きし、逃げ出したわけだが。
「この術はあまり使いたくないのよ?」
「相馬に教えていたくせに???」
「それはそれ。これはこれ」
相馬が沙耶に使用している場面を何度も見ている立場としては、すごく気になる。身体的、精神的には特に影響は無さそうだが、それにしても……。
「─千華、説明しろ」
「はいはい。陽向兄さん、そんな怖い顔をしないで。ちゃんと説明するわ。兄さんの力が必要だもの」
「俺の?」
「ええ。今、やっと沙耶と穏やかな時間を過ごしている相馬の手を煩わせるまでもないわ。総一郎を連れ戻して、この子を守らせるの」
ギュッ、と、仁知華を抱き締める千華。
「この子はね、産まれた瞬間に憎まれたの。母親の愛情を一身に向けられたから」
「……?」
「理解できないって顔をしているけど、本当なの。父親に憎まれたのよ。母親に愛されたことでね」
それは、父親の歪んだ愛が原因だと言う。
歪んでいた彼は、妻に依存していた。
そして、妻が夢中になった娘を憎んだのだ。
「一緒に愛することができれば良かったんでしょうけど、人間はそんなに簡単な生き物じゃない。この子が生まれて数年後、元々病弱だった母親は死んだわ。そして、父親から守る人がいなくなった。するとね、その父親はこの子を責めたわ。この子を産んだせいで、妻は死んだのだ、と」
頭を撫でながら、淡々と語る。
怒りを抑えているのだろう。目の奥は静かに燃えていた。
「そして、妻を連れ戻すと言い出した。この子の身体を入れ物として。様々な怪しいものにハマっていった男はね、最終的に自分の祖父の手記を見つけるの。同じように狂っていた祖父がね、溺れていた存在を知るの。それこそ、あの女のルーツよ」
それは、黒橋家……否、沙耶の母親の家系に執着を示し、害を成してくる一族の。
「そこから、この子は実験動物。血を、食事を、髪を、皮膚を……ありとあらゆるものを奪われ、与えられず、衰弱して死にかけていた」
「お前と出会ったきっかけは」
「夢で見たの。たったひとりの女の子が泣いていたわ。私は兄弟の中でも特殊で、精神的干渉の術や姫としての能力以外にも、自然の声を聞く能力とか、なんか色々と持って大きくなっちゃったじゃない?」
精神的にすり減るから、母親に禁止されていたもの。
禁止にされれば、血は騒ぐ。そう言って、千華は片っ端から好き勝手過ごし、母親に見つかっては大目玉……御園家当主の、御園家における待望の息女はとんでもないお転婆……もとい、かなりの問題児だった。
挑戦するのがいっつも危険なものばかりだった彼女は、そういう経緯もあり、精神的干渉の術に長けていたりする。